5-11,1つ目の回避
お嬢様は、尋ねた。貴族の紳士の妹様であるカリン様は卑しい奴隷である私に、聞いた。私の頭をその脚に乗せたまま。私の前髪を優しく撫でたまま。
「どうして死にたくならないの?それとも死にたいなって思いながら生きているの?私の目に映るあなたはもう、限界を超えているように見えるの」
甘い。口の中も脳みそも。私の額に零れる長い髪を伝って彼女の甘い香りが降ってきた。
私はこの人のために死にたいと思う未来があるのだろうか。
私はもしかしたら彼女に出会ったあの瞬間のために、生きてきたのかもしれない。そう伝えたかった。口から出かかっている心臓を飲み込んだ。喉に垂れ下がってきた脳みそを頭蓋骨へとおしこんだ。
私は、預言者との約束を守った。
「命をかけてでも守りたいと思えるほど大切な人と一緒に過ごす未来が欲しいからです。だから、生きています」
それがカリン様あなたであったらどれだけ嬉しいだろうと願ってやまないのです。
高級な衣類やアクセサリーには不似合いな首輪、それにお嬢様が触れた。「そうだね。そうなんだね」と彼女の口だけが動いていた。
それから少しだけ時間が経って、紳士が私の肩にそっと手を置いた。
「残念だけれど、時間なんだ」
帰り道、雨は止んでいた。車いすで門まで送り届けてくれたカリン様は、私の手首に香水を垂らしてくださった。
「香りなら取り上げられないでしょう?」
お嬢様と同じヘリオトロープの香りだった。
第5話 1つ目の回避 end




