1-3,歔欷の預言者との約束
部屋に入ってきたのは長身痩躯の青年だった。切れ目がくせ毛の長い前髪に隠れて少しだけ見える。20歳には満たないだろうか。品定めするかのように私をじっと見つめて、お気に召してもらえたのか彼はとても慈悲深い笑みをうかべた。首を傾げて細長い指を曲げたり伸ばしたりしているその仕草から気の弱そうな印象を持った。
この手のタイプだとしても行為が乱暴な人は少なくない。温もりから離れたあと、態度が急変する人もいる。しかし、横柄な態度を最初からとる人より印象が良いことは確かだ。
私はこの手のことに慣れていないかのように怯えを隠したような表情で「カラです。お選びいただけて光栄です」と声を震わせて言った。
「知ってるよ」
彼はそう言って、ベッドに、私の隣に腰かけた。
知っているとは、リピーターということだろうか。飛び入りの客であるからリストを確認することは出来なかった。前回どの程度の距離感で別れの挨拶をしたのかがわからないことは致命的だ。しかしあの品定めするような視線の動きは何だというのだろう。
静かに焦る私をよそに彼は低く小さな声でしゃべりだした。
「カラ。カハラの城下町出身。父親は寡黙で勤勉な職人で母親は過保護で温厚な花売り。お前は充分に愛されて過ごし、歌の才能を認められ今は亡き嬢王陛下の元で披露したこともある。握手を求められた時に、恐れ多さからかなかなか手を出すことが出来ず陛下の方から手を伸ばしてもらった」
私の喉が急激に乾いていった。早い鼓動を血液が流れる全身で感じていた。私は客に対して「両親の顔も名前もわからない」と話しており例外はない。たとえ彼がカハラ出身者で私を知るものだとしても、私は城で歌を披露した際の出来事は誰一人にも話していない。両親や親友にすらそれを語ることは出来なかったからだ。
驚く私の頭にポンとその指を置き、彼は再び話しだそうとした。
私は演技でなく本当に目をぎゅっとつぶり、体を固くした。その後の話をされたくはなかった。嬢王陛下とお会いしたその後を思い出したくはなかった。