5-1,1つ目の回避
豚小屋は静まり返っている。閉ざした唇は動きもせず、誰も私と目を合わせようとはしない。
預言者の話した通り、私の元に貴族の紳士が通い詰めるようになってからもうすぐで2か月になる。私は紳士が私のために作ることの出来る時間の全てで贅沢をしていた。試してみるまでもなく彼は私のわがまま全てをわがままだとも思わずに受け入れてくれるため、私の肌は徐々に潤いを取り戻し、どんな体制で眠ろうと骨が当たって鈍く痛む貧弱な体には肉が付いて来た。おそらく顔色も良いのだろうと思う。
いつからだろう。わからない。毎日くりひろげられていた空想話がなくなっていた。数週間前から会話に参加をしなかったのだ。彼女達の話があまりにも稚拙でくだらなく感じたのだ。もっと他の大切なことを考えていた方が有意義に時間を使えるような気がしたのだ。一般的な人間ですら口に出来ない物をゆっくりと時間をかけて味わえることも誇らしくて、外国のオイルを肌に垂らしその香りも楽しむ優雅さはここに居る誰にもわからないだろうと思う。
豚小屋の中身は私を除いて全員が呼吸をする生ごみのように感じた。
そしてなにより、私は預言を受けているのだ。運命が大きく変わると。この豚小屋だってあと数カ月もすればおさらばするのだ。
当然、豚小屋にいる奴隷達全員が私のことをよく思っていない様だった。貴族の紳士が私の元へと通い詰めていることは客の中で有名になり、客を通じてエンドたちに伝わっていた。客に関する詮索はほとんどしないのが暗黙のルールであるため誰もその話題を出さなかったが、全員が最近の様子を見て私の客であることを確信していた。
今日も無言のまま眠りにつく。エンドやシェルですら私の方を向こうともしないのだ。
でも私はそれでもいいと思った。彼女達は運命を共にする仲間でもなければ、私が命をかけてでも助けたいと思う相手でもない。
彼女達はおそらくその命を奴隷として終えるだろう。それは明日かもしれないし明後日かもしれない。でも、私はもしかしたらここを抜け、人間になれる日が来るかもしれない。マスターの財力を優に超える大貴族が罪悪感を抱き大切にしようと心に決めてくれた相手が私なのだ。彼の持つ財産ならマスターから私を買い上げ、私を人間にしてくれるかもしれない。そうなれば私はもう自分を生ごみなどと蔑む必要がないのだ。
奴隷は人間になれない? 金を前にそんなものは関係ないのだ。一週間に4回、望む物をなんでも見せてもらえなんでも食べることができ、丁重にもてなしてもらえる生物はもう奴隷から片足を出しているともいえる。




