4-5,嘘で甘美に煮込まれて
「僕は、5歳まで君のそばにいたんだよ、カラちゃん」
私は彼と二人で狭くおんぼろなベッドで寝転がった。親子のように見えるだろうか。清潔な彼のシャツはこんな黄ばんでざらついたシーツに似合わなかった。気品が常識のようにしがみついた彼に、隣にいる生ごみのような私は似合ってなかった。
「ごめんなさい。色々、その、私忙しくて、大変だったりして、覚えていなくて」
私はうつむいて小さな声で暗く言った。今は自分の正体を隠し通すためにも少しでも多くの情報がほしい。幸運なことに5歳までの記憶ならば、今覚えていないといっても不自然はない上に、奴隷生活の過酷さを想像させれば同情心から考慮もされるだろう。やはりこの男は慈悲の心が強そうだ。切なそうに眉毛を下げてゆっくりと瞬きをしてくれる。
「僕はね、君のお父さんのお友達だったんだよ。君のお父さんは僕にあんなによくしてくれたというのに僕は」
この人が人間カラの父親本人ではないことにほっとしている私とは対照的に、彼はまるでブリキ人形のように動かなくなってしまった。
あまりしゃべりたくはない。人見知りでおとなしく余計な詮索をすることを恐れる臆病で不幸な女奴隷でいたい。黙って手を握るというのも男の扱いに慣れている人間を思わせるようで、奴隷がやるには気味が悪い。自惚れるな。どんな扱いを受けようと奴隷は奴隷だ。爬虫類は毛の長い猫にはなれない。
彼は私が意図的に送った視線に気が付き、「あぁごめんごめん」と髪をなでてくれた。
「僕は君のお父さんを裏切ったんだ。僕がこの世の中を美しいと信じ込んで優しい世界以外から目を背けていなかったら、君はこんな運命をたどっていなかった」
私はつい仕事も忘れてこの無関係な紳士のことを本心からにらみつけてしまった。心がきしみ、頭に血が上りかけたのだ。幼稚な言葉を使うのならばむかついたのだ。この男が馬鹿で浅はかで配慮の足りない人間に見えたのだ。
そんな私を見て、人間様である貴族の紳士が奴隷の私に対して誠心誠意謝った。深く頭を下げしばらくは顔をあげなかった。シーツに涙がシミをつくった。
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