4-4,嘘で甘美に煮込まれて
昔の私は今とは全く違う名前で、人間としての喜びを当然のものとして享受し、あふれてもなお注がれる愛情を水道をひねるだけで出る水や棚を開けば手に入るパンと同じように、ないことのほうが不自然なものと認識していた。
お花を摘むことが好きだった。歌を歌うことはもっと好きだった。「賢いお利口さん」と父も母も何をしてもほめてくれるから、無限大の可能性が自分にはあると思っていたし、何になることだってできると思っていた。
でも、。首が転がって眼球が。数時間前まで嬢王陛下とで、も、声が聞こえ、血が顔についたと思ったら、内臓で、服がころんで。そのまま鼻からで、あ、ありがとうって言ったのに、いやでも誰も教えてくれなくて、人の腐った臭いとりんごが、にこって、最後だよほんとにいいの?、血しぶきが、それで、それで、それで、私は生き残ったのだ。死ぬより生きていたほういいと奴隷を自ら選んだのだ。
後悔をしているかどうかも自分ではわからない。だって、死んだらどうなるのか教えてもらっていないのだ。
私は確かにカラと呼ばれている。もうすっかりと慣れてしまった。
カラは奴隷である私につけられた名前だ。カラは奴隷なのだ。
幸福な家庭で穏やかな父と母が人間として大切に育てていくつもりであった私は、ちゃんと私に人間の名前があたえられていたのだ。
紳士は今もなお、私に抱き着き、謝っている。彼のいう罪や贖罪が何なのかはわからない。でもそれは私には全く関係がない。人間時代、カラという名前だった女奴隷がいるのだ。
私は首を少しだけかしげて、不安そうに彼と目を合わせ、彼の胸に自らの額を押し当てた。彼は鼻水をすすってえへへと笑った。




