1-2,歔欷の預言者との約束
チョコレートとか、キャラメルとか、差し出されることもある。その時、私は思い切り幸せそうな顔をしてそれを味わう。
「奴隷ですから、ぼろ雑巾な家畜ですから。こんな美味しい物はじめてです」
なんちゃって。嘘だよ。私の母はカスタードパイを作ることが得意で日曜日の午後2時は美味しい香りが子ども部屋まで届いていた。
でも「次はもっと美味しいものもってきてやるか」と思われることが大切。糖分って大切だから支給をくれる人材は1人でも多く確保しておきたい。
毛布に包まる時は飼ったばかりの頃のチェロを思い出して自分に映し出している。寒そうで。人のぬくもりに触れながらも怯えてて不安そうで。警戒するけれどちょっと手の甲を舐めてみて、やっぱり怖いと少しだけ逃げてみる。1日目で相手にとっての理想的な奴隷になってはいけないのだ。主導権は握らせていると見せかけて半分以上をこちらの意図通りに動かせなければ損をする上に身の安全の計算が狂う。
今日最後のお客さんが私を部屋に残したまま外から鍵をかけ、去って行った。「お駄賃だよ」と小銭をくれた。貰ったものは全て取り上げられてしまう上に、隠し持つことに成功したとしても買い物をする機会すら得られない。その場で食べてしまえるものでないと意味がないのだ。私はゴミを貰ったというのに微笑んであげた。
私は穢れたシーツを剥がして丸めてたたみ、地下収納から新しいシーツを取り出してベッドを仕事前の状態に戻した。それから部屋の隅に脚を伸ばして座り、このまま係りの男が迎えに来るのを待つ。寝起きしているのは南京錠のついた6人が脚を曲げてぎりぎり眠れる小さな部屋なのだから、1人でいることの出来る時間はこの時だけだ。
でも、こんこん、とドアが鳴った。迎えの男はノックなどしないで乱雑な音を立てて鍵やドアを開ける。
「あぁ、飛び入りの客の連絡が入ったのか」
私は髪を整えた。下着と呼ぶのかワンピースと呼ぶのか。白い裾を指できゅっとひっぱってベッドに軽く腰かける。