3-6,ゴミ箱で咲き誇る
エリが去ってから2日がたった。でもエンドの顔を見ても彼女がこの場に居ることに何一つの安心感も味わえない。
だって別に、豚小屋にいるということは「まだ死んでいない」とお互いに確認できるという、ただそれだけなのだ。もしかしたら、もしかしたら、豚小屋よりももっと死に近い生活が出来る場所だったらここよりも天国なのかもしれない。明日死ぬか1カ月後まで生きるのかがわからないことよりも、毎日確実に死が近づいていくことの方が幸せなようにも思えてきた。
私は剃っていない髭がこすれる度に音をたてフケが舞わせる男に肌を預けながら、息を甘くしながら、預言者の言葉を思い出し、こんな薄汚れたところに本当にあと数日で高貴な身分の人が来るのかと疑った。排泄物の中にサファイヤが混入しているようなものではないだろうか。
同じ労働をし、同じ食事を取り、同じ人に飼われ、同じ人に使われ、同じ部屋で眠る人物がいなくなったというのに、腐った心と廃棄寸前の臓器を持った私はもう何も思わない。我が身を犠牲にしてでも誰かを救いたいと思う、その予言はやはりどこか空想じみていて現実味がなく、預言者の来訪すら夢だったのではないかと思わせた。
私は今日もまた、豚小屋へとエンドたちと共に帰ってきた。私達の主は私達に豚小屋を与えたけれど、私達奴隷が呼吸をしている限り、私達はどこに居ようとゴミ箱の中にいるのだろう。焼却炉に放られるその日まで、いかに呼吸ができるかが私達の全てであり、雑草は雑草らしく燃やされるその日までゴミ箱の中で酸素を生み出すのだ。全ては人間様のために。