3-4,ゴミ箱で咲き誇る
予想通り後日私たちの豚小屋に私たちとは若干瞳の形が違う女の子がやってきた。嫌悪も歓迎もせず、私たちはそれを受け止めた。別に人間関係はここでは大切ではない。奴隷が減り、奴隷が補充されるなどしょっちゅうだ。
新しく来たその子は部屋に入ってきてから今に至るまで常に口で弧を描いているような子だった。明るい性格の持ち主にはとても見えなかったが常に笑っていた。
「昔のカラみたいだね」
私にそう耳打ちしたのはサキカだった。そう、私も昔は常に笑っていた。でもこの豚小屋で出会った今はもう顔も名前も思い出せない人物が奇妙なまでに笑顔をキープしていて、それを気持ちが悪いとずっと感じていたけれど、ふとした時に鏡で見た自分は全く同じ表情をしていたため酷くショックを受け、人間性そのものを変えたのだ。
新入りの彼女を迎えるエンドを私はずっと見つめていた。エンドは不思議な程に落ち着いていて笑顔こそ見せないが、彼女の求める握手に柔らかい雰囲気で応じている。今までのパターンだとあと数時間もすればマスターとオーナーの両方が来てエンドを連れ去るだろう。
自己紹介が終われば豚小屋に特別な雰囲気はない。彼女だって一カ月後ここにいるかわからないし、姿を見ることがなくなった最短記録は出会って四日目だった。良い関係など築く必要もなく、奴隷に人間関係などおこがましいにも程があるのだ。ジャガイモの芽と人参のヘタに仲の良さなど意味がない。
私達が眠ろうとする頃、マスターはオーナーをつれてやって来た。髪を整えたエンドは軽い体で、まるで幽体離脱でもするかのように立ち上がった。
やはり、彼女は笑っていた。
「お前じゃない。座れ」
そう言ったのはオーナーだった。その場に居た誰もが動揺した。この中で良い稼ぎを自負している私ですら動揺した。
汚く醜い奴隷達は、清らかなエンドに対して「こいつより自分はここに居る価値がある。生命体としての価値は別として」と、そう思っていたに違いないのだ。
エンドは力が抜けたのか、まるで火であぶられる氷像のように地面に溶けていった。顔は見えないが、胸に手を当て、自分の生を喜んでいるように見えた。
エンドと新人の彼女を覗いた奴隷全員の視線がぶつかり合い殺し合う。鎖で首を繋がれている私達は人間ではなく奴隷で、商品と言うより家畜に近い。
首輪の痕すらない人間様はさも愉快そうに笑っていたが、すぐに飽きたのかうんざりした顔になって咳ばらいをした。