3-3,ゴミ箱で咲き誇る
豚小屋に入った私は他の視線も気にせずにエンドの肩をつかんでいた。けれどエンドが何かを口にしたわけでもなく、エンドの笑顔の真意もわからないため、私は何も言葉に出来ないでいた。
「カラ、どうしたの?」
エンドが私の頬骨の上をなぞった。そこは今日客から万年筆を押さえつけられたところだった。今は出来立ての傷の生々しさが目立つけれどそのうち色あせて見慣れたほかの傷跡と混ざる色へと変わるだろう。
「私は、エンドが好きよ?」
私たちが交わす視線を劈くように言ったのはサヤだった。余裕たっぷりの笑顔で両足を伸ばして座っている。
「急に何?」
そう尋ねたのはエンドではない。私だ。サヤはエリやサキカとはよく話すが私達に対して彼女から話しかけるなんて彼女と出会ってから10か月、ほとんどなかったに等しい。
「エンドのへらへら笑わないとこ素敵って言ってるだけよ」
サヤは眉毛を八の字にしてそういった。普段よりも彼女の声はさらに少しだけ高くなっていてさらに嫌悪感が増した。イライラした。この光景を見たのは初めてではない。半年前にあの子がここからいなくなる前日も彼女はこんな風に自分は安全であると主張しているかのように声をかけていた。その次の日あの子の代わりにここにやってきたのはトルパだった。
エンドは私の手首を引っ張った。ささくれだらけのぼろぼろの指が水分がないうろこのような手首に巻き付いている。
「ありがとうサヤ。私もにこにこしてるあなたが好きよ?」
エンドは笑ってこそいない。けれど口調は優しく、嫌味を言っているようには感じなかった。私だったらきっと思いつく限りの嫌味を言っていたに違いない。
しかし私は驚いた。サヤはまるで本当に心配しているかのように「でも、本当に気にしすぎないでね」と言ったのだ。
「あの、なんていうのかな、なんていえばいいのかわかんないけどさ、大丈夫だよ。きっと」
私が意地悪くサヤのことを見すぎたのだろうか。彼女は本当にエンドに魅力を感じていたり彼女を心配したりしていたのだろうか。
エンドはうなづいただけだった。もうおしまいにしようとサキカがサヤの腕を引っ張り、その会話は終わった。