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君は奴隷でぼろぼろで  作者: なみだぼたる
第2幕 奴隷は嘘つき偽善者で
142/145

16-8,奴隷と子どもはぐっすり眠る



 罪無き皆様、どうか私に教えてくださいませ。どうしたらこの運命を変えることが出来たというのでしょう。


 ルズル家の迎えが来るまでの二週間の間、私はたった一度の両親への面会も兄の安否の確認も許されず、まるで奴隷のようにキンファ家の言いなりになりました。髪の毛は痛んだ箇所を全て切り落とした上でオイルを塗りたくられ、足の爪先を何時間もかけて整えられ磨かれました。歩き方やお辞儀の仕方、食べ方に相槌の打ち方、全てを訂正されこれまでの人生全てを否定されているようでした。キンファ家に雇われた先生達も泥団子を宝石に偽装するよう言い渡された気分であったと思います。視線の動かし方の指導を毎日のように受けましたが最終日までそれが滲み込むことはありませんでした。私は愚鈍な上に愛情以外の全てに飢えた人間ですから、上流階級の求める洗練された思考と行動や隙のない教養など短期間で身につくはずなどなかったのです。


 奥様と旦那様の顔色は日に日に悪くなっていきました。レッスン最中の私を見ては互いに耳打ちをし、5分もすれば金切り声が部屋中に響き渡りました。奥様は自らの頭皮をかきむしりながらうずくまり、旦那様は彼の視界に映る私の全てを叱りました。いいえ、キンファ家の悪口など、私は言っていませんわ。自分の情けなさを恥じているだけです。


 試練の日は呆気なく嫌な予感とともにやってきました。眩しい程に純白が輝く重たいドレスに身を包み、痛みを隠すように髪を整えられ、露出している肌の全てに粉を叩かれながら、私は時計の針が動く音を聞いていました。


 必要以上の人数の大人に囲まれて姿を見せたルズル家の坊ちゃまは麗しい見た目をされておりましたが、人柄が良いようには見えませんでした。謙虚さを微塵も感じさせない自信たっぷりな顔をしていて意地悪な目つきをしたお方でした。重々しい雰囲気の中、互いに挨拶をしている際中も彼は私の体をじろじろと見ていました。


「我々は大人の時間を、若者は甘い時間をつむぐことにしよう」


 そう言って主役であるはずの私達は大人達に追い出されるように広く大袈裟に飾り付けられた庭へ出ました。


 彼は私の役目が人質であることをよく理解していました。私のことを可哀想だ不幸だとゲラゲラ笑うというのに突然真剣な顔になると「親父は冷酷な判断もする奴だけどお前に益がある限り手洗い手段はとらないさ。お前の存在が有益にならない兆しが見えたら俺が逃がしてやるよ」と、悪だくみをする子どものような顔で言ってくれるのです。不思議な方でした。


 しかし、私が海を渡りクレアモリアへたどり着くことはありませんでした。夕食時になってようやく到着したルズル家のご当主様は瞬きもせずに私を観察し続け、詩の朗読をするようにと詩集を用意させました。私は教師に教わった通りの抑揚と声の高さで読み上げました。彼はそれを鼻で笑うと、ピアノの前に私を立たせました。私はピアノなど鍵盤に指を置いたことすらございません。


「恥ずかしながらそのピアノは調律が済んでおりませんの。酷い音が鳴りますわ」


 奥様が言いました。それを聞いた坊ちゃまが何かを察したのでしょうか。不機嫌に「もう用は済んだなら帰ろうぜ。クレムが待ってる」と席を立ちました。しかし彼は四角い顔を豪華に装飾する髭に指を触れただけです。


 立ち尽くす私を見て判断を確実なものにすると「キンファ如きがルズルを愚弄するか」と彼は地獄を飼いならしたかのような瞳で部屋中を見渡したのです。


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