16-6,奴隷と子どもはぐっすり眠る
処刑人様、そして清き国民の皆様、私の懺悔にお付き合いいただけますか? 石はどうぞお投げくださいませ。しかし私以外の方にぶつけてしまう恐れのある投石能力に自信のない方はお控えくださいませ。ここには透き通るような色白肌の私を除き皆様綺麗な肌をしているのですから。皆様なんてお美しいのでしょう。生まれてから今宵まで金色の髪にブルーの瞳で美とは無縁に暮らしてきたものですから、羨ましい限りでございます。
さぁ、それでは昔話を。私はこの卑しい見た目からわかるように貧困の家庭で生まれた時から暮らしておりました。私が生まれる以前は父は大手銀行の職員で母はキンファ家のメイドとして勤めていたそうで裕福な暮らしをしていたみたいです。しかし、母がクビを言い渡されたその次の日、父も突如職を手放すことを命じられたそうです。その頃、母の大きくなった腹の中には私がおりましたし兄もまだ3歳でしたので、父は仕事を選ばず求人に飛びつく日々を過ごしたと言います。
父と母が遅くまで帰って来ず兄と二人きりで過ごす日々も、全部食べてしまいたいパンを半分残す生活も、私は不幸だとは感じませんでした。やつれて疲れ切って帰ってくる父と母は、私と兄を見る度に本当に幸せそうに歯を出して笑ってくれるのです。それに幼い頃から兄の口癖は「僕の幸せのために笑っていてくれ」でした。
あぁ、申し訳ございません。咎人の幸せであった頃の思い出話など退屈なだけでしたね。時間を大幅に進めましょう。
今から一年と半分ほど前、私が12歳の時、借金と家賃の滞納に追われて暮らす私達一家の元に、キンファ家の旦那様がやってきました。権力と気高さを誇示するかのように勇ましく彼は鍵を壊し屋内へと入ってきたのです。テーブルの上や窓ガラスを眺め「掃除も出来なくなったか」と高貴で紳士的な挨拶を当時留守番をしていた私と兄にくださいました。
私達兄妹は狭い狭い自らの家の中で、彼とその部下に囲まれました。キンファ様は私の頬を掴んで顔中を観察し、瞼を持ち上げ瞳をじろじろ見つめました。そして手を離すと今度はウエストや手首を力強く掴み「女性らしさの欠片もない」とおっしゃってくださいました。
兄は私を救おうと椅子を持ち上げ振りかぶったために取り押さえられました。
キンファ様は「仕方がないか」と呟くと散々観察していた私ではなく一度も彼の関心の対象となっていない兄を力づくで運び出し馬車へと押し込んだのです。
違います。この涙は悲しいからでも悔しいからでもございません。あの名高いキンファ家の偉大なるご当主様の御顔を目の前で拝見出来たこと、そしてその圧倒的な力を体感出来たことに、感動したのでございます。それを思い出したのでございます。
無力な私は父と母が帰ってきて兄を取り返してくれること望んでただ待つことしか出来ませんでした。