3-1,ゴミ箱で咲き誇る
今日は起床時間から豚小屋はそわそわとしていた。海の向こうから奴隷商人がやってきて大々的なオークションを開催するというのだ。奴隷が増えれば、その増えた分だけ奴隷が減るのだ。それが普通。その奴隷がまだ金になると判断されるのならば異動や売買があるが、それすらもただの手間と考えられたら殺されてしまう。みんなそんなことはわかっている。
預言者は高貴な客が一カ月もしないうちに私の元にやってくると言った。ということは私は殺されないということだろうか。毎日指折り数え、今日で彼の予言から2週間がたった。もうすぐその時は来るのかもしれない。いや、数カ月待ってもその客が来なかったら私の予言は、運命は、どこへ行くのだろう。彼が予言を私に伝えたせいで未来が変わるということももしかしたらあるのかもしれない。
皆、真っ青な顔をして乾いたパンをかじった。会話好きを装うサヤですら一言もしゃべらなかった。誰かと目を合わせようとする人はいない。諦めと感情の枯渇に慣れているはずの私達であるのに、建物の外を馬車が通る音にも、犬が吠える声にも、肩を跳ねさせて驚き口に指をくわえた。
死刑の判決がいつ来るかはわからない。今日仕事が終わったら言い渡されるかもしれないし、明日かもしれない。明後日かもしれない。もしかしたら全員無事かもしれないし、全員死ぬかもしれない。
あのマスターが、大型オークションで遠い地の奴隷を買わないなんてことがあるだろうか。私達は肉体労働に向いた奴隷達が多いことを心から願っていた。
髪を整え終わり、部屋の鍵が開けられ、2人の迎えの者は私達の首輪についた鎖を固定具から外していった。その鎖の先っぽは3人と4人に分かれて束ねられてグローブでしっかりと握られる。
私達は恥とも思わずに、鎖を引っ張られ外を歩き店へ向かう。私の前をエンドが歩いている。ふと彼女の服の裾が少しだけめくれていることに気が付いた。めくれていようと、どうせ服は肌が透けるくらいにぺらぺらなのだが。
私はつい無言でそれを指でなおしてしまった。流石にエンドもびっくりしたのかつもの不安そうな顔にほんの少しの不思議さを加えてこちらを見て来た。
「ごめん、めくれてたからつい」
私がそう言うとエンドは笑って言った。
「そっか。ありがとう」
そう、笑って言った。笑ったのだ。エンドが。初めて見た笑顔だった。下手くそな笑顔だった。
「やめてよ」
私がそう口にすると、彼女はまた憂鬱そうな顔に戻って「どうしたの?」と聞いて来た。「笑わないあなたでいて」と私は言えなかった。何故なら歩調が乱れたことと会話をしたため、鎖を強くひっぱられ首がしまったからだ。
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