16-3,奴隷と子どもはぐっすり眠る
青い空に虹がかかる、明るい夜だった。満月が作りだす星々が風に乗って空を泳いでいく。私は森の中を二足歩行のウサギの後ろを小さい歩幅で歩いていた。
「ウサギさん、パーティーって言うのはこんなに深夜に始まるものなの?」
「何を言っていっているんだい? まさか君には今が夜に見えるのかい? すっかり熟した月が果実をこぼして輝いて、星達は互いにぶつかるたびに涙を流し水の恵みを地上に与えているというのに」
「そうね。私も午前中以外に催されるパーティを知らないわ」
ウサギはにこにこしながら二回深くうなづいた。
ウサギは真っ白で小さい花をその足で踏みつぶし黄色く背の高い花の茎をへしおって進んだ。私はそこら中に生えている赤や紫の大きなきのこが気になった。真っ黒なものもあった。
「これは食べれるの?」
私の問いにウサギは首を傾げながら答えた。
「食べてみればわかるさ、そんなの当たり前だろう? 君が一番美味しそうだと思ったものをちぎってみればいい」
「そうね、でもやめておくわ。これからドレスを着るというのに、きのこの中身がマシュマロのキャラメルがけやチョコレートコーティングされたアップルパイでウエストが太くなったり顔がまん丸になってしまったら嫌だもの」
「ドレスなんて着るのかい? もしかしてパーティにでも行くつもり?」
「そうね、囚人に大きなリボンのついたドレスも肩や背中を大きく露出させたドレスも必要ないものね」
「そうそう。身の丈にふさわしい恰好が一番美しいよ」
ウサギは木にたった1つだけなった林檎をとるとかじりだした。赤黒いな果汁が蜂蜜のように垂れていく。まるでウサギのために用意されたかのように低い位置になっていた林檎だった。
空を見上げるとまだ大して歩いていないというのに満月がすでに三日月になっていた。月から生成され続ける星々が自らの権力を誇示するかのようにそれぞれが煌めき、夜空はまるで戦場だ。強く強く思いこめば、きっとあの涙は血に変わる。
ウサギはぽいと、林檎の芯を放り投げた。空中でそれは大きな枯れ葉に変わり、地面に落ちるころには砂になっていた。テントウムシは砂を見て残念そうに引き返したが、リスはそれを袋に詰めてどこかへ行った。
草で編まれた船で牛乳の川を渡り、その途中でウサギは手紙の配達を雁に頼み、青色の花びらが降る陸で船を降りた。船は枯草となってミルクの底に沈んでいく。
「完全に枯れてしまう前に陸にたどり着けてよかったわね。ミルクの中で溺れてしまうところだったわ」
「何を言っているの? 僕達は何日も何日もずっと歩いてここまで来たんじゃないか」
「そうだったわね。途中歩き過ぎて靴が壊れてしまったから、私は裸足なのだったわ」
私達の目の前には高い高い柵に囲まれた左右対象の真っ黒な建物がある。建物の横に伸びる木もその周りに咲く花も左右対称だ。
「ところで私はどんな罪を犯したのだったかしら」