14-6,馬鹿は騙されるのが役目なので
「海、海、そうでしたか。夜の海を見に。私はこの街で生まれてこの街で育ち若い頃は船員として育ちましたから、海を見て新鮮な気持ちを味わったことはありませんな。ましてや夜の海への興味など考えたこともなかった。お嬢さん、夜の海はいかがでしたか?」
砂糖もミルクも混ぜられていないコーヒーに私の舌が泣いている。時期に胃や腸も泣き出すに違いない。私は嬉しさをいっぱいに顔で表現してからマグカップから口を離し、真剣な表情で答えた。
「ぽっかりと大きな穴が空いてるような気がしてしまい、申し訳ありませんが少し怖かったですわ。わがままを言って連れていってもらいましたのに」
「朝や昼にまた一緒に海へと行っていただきたいものですな。灰色の空を、常に私達を包み込む灰色の空を見て美しいとは思わないでしょう? けれどその空を水面に映す舛花色の海を観光客の1人は美しいといい、また違う観光客は寂しいというのです。見る人の心の状況が影響するのでしょうか。ぜひあなたの感想が聞きたいものです」
私は減らないコーヒーの闇から視線を上げて微笑んだ。おそらく自ら意図的に彼に感想を伝えることは無いだろう。彼に気に居られたところでメリットは微塵もない。
緊張させまいという気遣いだろうか。門番は背筋を緩め、首を回し「最近年のせいか疲れががとれなくて」と笑った。そしてアルマに尋ねる。
「レングロへいらっしゃったのは観光で? それとも船が目的で?」
「船です。僕は芸術の道で生きていくことを目指し彼女に手伝いを頼みながら修行をしているのですが、クレアモリアの精霊祭をテーマに絵を描きたいのです」
アルマは時計を見てもう深夜の12時を回っていることを確認すると「2日後に出港するチケットをとりました」と告げる。以前彼は絵を描けないと話していたためはったりだろうか。いや、しかし彼の家には大量の芸術作品が生き生きと死んでいた。
「あぁ、精霊祭か。いいですね、私も嫁に連れていくと約束したのにいいわけばかりして結局行かなかった。私も実際に見たことはないが大層美しいらしく各国の王族や貴族何かも集まるらしいですから、お兄さんはお嬢さんから目を離さないように用心していないと精霊様の甘美な舞に酔った男達に攫われてしまいますよ。ついでにお聞きしますが普段はどちらにお住まいですか?」
「もともとはケップ大陸のモルガドという国で僕も彼女も暮らして居ました。けれど今は旅人も同然の生活をしています」
「ケップ大陸ですか。それはまた遠いところから」
門番の視線が私のコーヒーに向いた。アルマのコーヒーはあと一口分の所で意図的に放置してあるというのに私のそれは一口飲んだ切り放置されている。
「次からは可愛らしいレディが来る時のためにミルクや砂糖を用意しておきましょう。いいや、蜂蜜が良いですかね。この港町は珍しい花の蜜もたくさん輸入しているのですよ」
外へと通じる扉がノックされた。門番が「失礼しますよ」と立ちあがりしっかりと二重に閉ざされた鍵を開いた。入ってきたのは呼吸も髪も整っているが汗が額から垂れる先程の若い門番だった。「確認してまいりました、ご協力誠にありがとうございます」と敬礼をされ、私とアルマも背筋を伸ばした。
2人の門番は待機所を出て真っ暗な夜の闇に一度にこやかに消えると5分程で戻ってきた。
「グレイス・キンファという名をご存知でしょうかな?」
老いた門番がそう尋ねた。私とアルマは同時に首を横に振った。
「あなた方が発見したレディの名前です。ではキンファ家をご存知でしょうかね?」
「いいえ、僕達がこの街に着いたのは昨日のことですから」
そうアルマが言い終わる前に若い門番が口を挟んだ。
「ではキンファ家に怨みを持っている人間をご存知有りませんか?」
明日は投稿を休みます。理由はパソコンが直らなかったことです。もし明後日になっても更新がされなかったら生ごみは所詮雑魚であると笑ってください。