14-5,馬鹿は騙されるのが役目なので
門番は蒼白な顔色と3日寝ていないかのような目つきをしたアルマがふらふらとした足取りでやってきたことに驚いていた。既に何人もの人間を殺し自らの妹と年の変わらない少女にも手をかけた殺人者は、おそらく死がいの第一発見者にふさわしい顔をしている。私は小さな歩幅で彼に追いついてはその背中に指先を添え、追いついては指先を添えを繰り返した。怯えているかのように顔を下に向けて時々体の全てを震わせてみせた。
アルマから崖下に少女の死体があったことを聞いた見知らぬ門番の若い男はすぐさま街の中央の方角へと走って行った。街に到着した際にお世話になった老いた門番は私達を待機所まで誘導すると湯を沸かし、コーヒーを淹れてくれた。
待機所は大きな一部屋で構成されてり、私とアルマが腰をかければ門番の彼が座る場所はなかった。アルマが遠慮しようとすると笑顔で「仕事中ですから」と返された。奥を見ればベッドが四つ置いてある。そのうちの二つは毛布と枕がセットされているが後の二つははだかのままだ。
「すまないね、ミルクがないんです。若い二人には苦いかもしれませんが」
「いいえ、体が冷えていたので助かります」
「そう言えばお嬢さん、あれから風邪をひきませんでしたか?」
彼は私達がこの街に到着した時のことを覚えている様だった。私はかすれた小さな声で「はい」と答えた。なるべく、しゃべることはアルマに任せたい。
アルマは私の肩にそっと手を置いた。
「彼女を宿まで送り届けては駄目でしょうか。第一発見者は僕ですし、更に彼女には現場を見せていないのです。怖い思いをさせたくはありませんでしたから」
「疑うわけではないのですよ? 疑うわけでは無いのですが、尊い命がなくなられている以上、ここに居てくださると我々が助かるのですよ。すみません。それにしてもどうしてこんな夜中に崖下へ? 何も見えないでしょう?」
アルマは私の手を握った。
「彼女、海を見たことがないんです。だから、朝の海も昼の海も夜の海も、見せてあげたかったんです」
短すぎる投稿ですが、パソコンの調子が絶望的に悪く何度も電源が落ちてしまったため、続きは明日14-6として投稿します。