2-4,まるで友達のような奴隷
毛布一枚が奴隷にとってはベッドであり掛け布団である。その毛布も穴は空き汗は滲み込み虫が卵でも産みつけていそうだ。私達は人間様に体を添わせるのだから、接客ごとに体は水で流している。残念なことに人間生活のように石鹸の香りに包まれたりシャワー後に体にミルクを塗ったりは出来ないけれど。でもこんな毛布で寝ているのだから清潔とはとても言えなさそうだけれど。そもそも奴隷に清潔なんて豚にドレス着用と同じくらい無縁だ。昔は不満を持っていたけれど、朝パンがもらえたらそれは幸せで、1人一枚毛布があればそれは贅沢なのだ。ひれ伏して感謝しなくてはならない。オーナーやマスターが屑人間だろうと、こちらは豚奴隷なのだ。
娼婦になれたらどれだけ良いだろう。毎日そう思っていたけれど、あの日からそう思う回数は減っている。預言者が来た日からだ。何のために生きているのかわからない私が誰かのために命をかけたいと思えるなんて、どれだけ素敵なことだろう。そんな存在が出来るのであれば私は奴隷のままでいい。それが奴隷としてではなく底辺の人間として得られるのなら、それこそ死んでもいいと思えるだろう。
寝息が聞こえる。寝返りで布がすれる音がする。時折うなされているのか荒い呼吸が聞こえる。起こしはしない。キリがないから。たとえ悪夢で悲鳴を上げたとしても、他より自分なのだから、みんな睡眠を優先する。起きているということはそれだけで体力を使い、ぼろぼろの体はそれだけで寿命を少しずつ削るのだ。
この豚小屋には何もない。毛布に包まった死骸のような奴隷が6つ転がり、そこから鎖が伸びて固定されている。それだけだ。内装は何もない。ドアが付いているだけのただの箱だ。豚箱。ゴミ箱。肥溜め。
目を開けたまま眠りに落ちるその瞬間を待っていると、隣にいるエンドと目があった。
「カラ」
彼女は私の名前を呼んだ。いや、正確にはそう口が動いた。この中で一番奴隷っぽくないと自負しているが、この中で一番美人なのはエンドであると思う。悲しそうな顔が今にも泣きそうな目が、朝起きたら死んでいそうな弱々しい体が、彼女によく似合っているのだ。
「おやすみ」
私もそう口を動かした。彼女も「おやすみ」と無音で返した。起きた時、少し話せると良いだろう。明日も彼女が笑顔を見せず不安そうにしていればいいなと私は思うのだ。