13-3,謎ぐちゃり、君ぐちゃり。
すぐにわかった。一人称が「俺」であっても今私を踏みつけながら助けると言ってくれた人物が女であると。低い声であったがやはり女性の声は男性の声とは違うのだ。私はほっとしていた。彼女がヒールを履いていないことに感謝をした。
刃物が縄を裂いていく音が聞こえる。どうやら散々蹴り飛ばしたり踏んだりと乱暴なことをしていたが助けてくれるというのは本当らしい。私は少しだけ焦っていた。私が彼女の希望を持ち運んでいるなどありえるだろうか。私が唯一誰かの希望になっているとしたら、それは預言者だ。預言者が見た未来では私と彼の大切な人が一緒に死んだという。それを私であれば回避出来るかもしれないと話を持ち掛けてきたのだ。しかし預言者は男である上に精神や人柄は不安定であったが乱暴をするような人間にはとても見えなかった。ロープが全て外れ分厚い布の中から私が顔を出した時、「人違いでした」というくそつまらない展開はあり得ない話ではない。しかし、焦りが少しだけである理由は拘束さえ解いてもらえたらどうにでもなるからだ。人違いをした上に奴隷に乱暴をして差し上げる善人な人間様が出来上がるだけだ。
「あぁ、憎い、憎い」
そう言いながら彼女は縄を全て切ってくれた。私は暑苦しい布を一気に脱ぎたいところを我慢して、布の先から目だけ出すようにしたかった。しかし、彼女によって布は力強くはぎとられ、私の体は簡単に吹っ飛び再び荷台の上を転がった。今度は布に守られていないため激しく体が痛んだ。しかしそんなことよりも服が汚れたことの方が心臓を濁らせた。
彼女の顔を私はようやく見た。前髪が長く背が高い女がいる。たれ目で垂れ眉で顔の上半分だけを見るなら暴力に頼らない穏やかそうな人間に見えたが、大きな口を真っ赤な口紅が囲っており真っ白い歯が光っている様子は美しい獣のようだった。低い声も男性のような一人称も良く似合っている。
でもやはり見覚えはなかった。