13-2,謎ぐちゃり、君ぐちゃり。
馬車の荷台は乗り心地が悪い。私の体は何度も跳ね上がり腰や頭を打ち付けた。頭から足の先まで布に包まっていて良かった。綺麗で清潔な服が荷台の雑巾として活用されるのは悲しい。荷台を舐めろと言われたら上目遣いを織り交ぜつつ目に涙をためて舌をそっと這わせると思う。喘ぎ声に似た呼吸を意識しながら。
許しを貰って顔を上げて太い指で犬のように頭を撫でてもらう所まで空想していたところで、鈍い音が2回なった。そう、2回。まるで走っている馬車の荷台に右足と左足を置いたような。
きっとアルマだ。やはり預言者の予言は合っている。私の心臓は急に元気を出し、締め付け血管を押しつぶす縄など気にも留めず血液が回る。体が暖かくなった。
しかし、彼は何も言わない。
でも、確かに私の近くにアルマがいるのだ。それは間違いがない。呼吸音が聞こえるほどに私達は接近している。しかも先程と風当たり方が違う。彼が彼の体で風を遮っているはずなのだ。
私は猿ぐつわをされたままの状態で「アルマ様」と呼びかけた。生暖かく崩れた声に変わった。アルマは女性に慣れていないような印象を持っているため、縛られた私を前にしてどうしたらいいのかを悩んでいるのかと思ったのだ。
しかし私は横っ腹を蹴り飛ばされた。豚の生肉だって蹴り飛ばされたりはしないだろう。いや、もしかしたらするかもしれない。ぐるぐる巻きにされていたおかげで痛みは鈍い。
アルマが私を蹴るはずはない。私は足の指先から管を入れられ血管に氷水を入れられている気分になった。足先も指先も痛いのだ。私が素直に痛みを感じているのはおそらく顔を誰にも見られない状況にあるからであると思う。いまの状況は、留守番中の家よりも浴室よりも牢獄よりも安心で安全だ。痛みや恐怖を感じて受け止めることがこんなにも気持ちがいいこととは私は思わなかった。快感が脳内で次々と花開き花粉を撒いている。
今度は腹部を踏まれた。チャックが私の肉体で食べた朝食が居場所を見失って不安で泣き出している。泣き出してぇのはこっちだけれど。そんなことを考えていたら腹部への圧迫が強くなった。明らかに体重をかけられている。痛みよりも息苦しさが勝る。性商売小屋に居た時、私を踏みつける人間様は笑っていた。死体処理場に居た時、私を踏みつける奴隷さまは軽蔑の目でみていた。今この人物はどんな表情で私を見ているのだろう。
やっと、喋った。
「助けてやるよ。死んでほしいくらいにはお前を憎んでいるけれど、お前は俺の希望を持ち運んでいるからしなれちゃ困るわけだ」