12-11,奴隷に甘美は似合わない
アルマが私の手に高価の入った布袋を握らせたのが会話の終了と解散の合図だった。彼は私に産むを言わせず自らの手を放すとこの部屋の鍵がぶら下がっている壁を指さしさっさと部屋を出て行ってしまう。
不穏な空気を感じてはいた。彼は生命を存続させるために人間様を殺し続けなくてはいけないのだから血生臭さと彼は切っても切れない関係にあるのだから仕方がない。
彼の言う通り干渉をしないことこそ最も良い関係が築けるのかもしれない。私は布袋をポケットにしまい部屋に鍵をかけると宿屋を出た。こんなにも栄えた街の中を歩き好きな場所を好きなだけ見て回れるなんて、どれだけ素敵なのだろう。ロンド様のような人が隣にいなければ、立派な貴族の紳士に連れられていなければ、自分に似合わない街を自分に不釣り合いな恰好で歩いて居るとしてもきっと以前のように神経を削られ抉られることはない。
私は目的地もなく歩くことにした。綺麗な恰好に身を包んでも甘い言葉をかけてくれる男がいないのはかなり私をガッカリさせた。アルマといつまで旅をするかがわからないため、なるべく彼の出すお金を使いたくなかったのだ。
最初に見つけた美しいお店はワゴン3台をお店にしている香水屋だった。私がそれを見てカリン様やサキカを思い出して不機嫌にならずに済んだのは、私の知っている香水とは全く違う形をしていたからだ。液体が霧となって脈を包み込む私の知っている香水とは違いそれは個体だった。
店主のおばあさんはにこにこと言った。
「試しにつけてみないかい?」
「いいのですか? 私このような香水は初めて見ましたわ」
「これは練り香水と言ってね、指でちょっとだけ肌に塗るんだよ。ずっと遠くの国から輸入して来たものだから知らないのも無理はないね。お嬢さん、恋はしているかい?」
老婆は薔薇色の頬に皺を作って微笑み私に聞いて来た。
「恋? ですか。えっと」
私がアルマに恋心を持つことはないし、私達が恋仲になることもありえない。しかし、アルマにも他の今後出会うかもしれない異性にも好かれて損はない。
私が恥ずかしさで目を潤ませながら小さくうなづくとお婆さんは幸せそうに深くうなづいた。
「じゃあ、これをお試しでつけてあげるよ。お嬢さん見たことない子だからサービス。これは女の子らしさを引き出して殿方を魅了する香りだよ。媚薬なんて名前がついているのさ」