2-3,まるで友達のような奴隷
「言葉は通じないよ。人間はそこに居なかったから」
エンドの質問にエリが答えた。
「妖精の世界なのかな? 妖精は耳が聞こえないから音が聞こえないって聞いたことがあるわ」
そう言ったのはサキカ。この中では唯一私と同じで人間として生を受け、奴隷の身に堕ちた子だ。私よりは人間でいた時間は短いようだが、やはり所々で教養を感じさせる話し方をする。時折見える品位はやはり人間の暮らしを知っている者だけのものだ。
私達が誰か一人でも眠るまで、夢物語は終わらない。その話題の中身はどれも入室したばかりの客が服を脱ぎながら、あるいは性行為後の気怠い気持ちの中、話されるものが混ざっている。その為、異世界の話はどこか現実味を帯びてしまっているのかもしれないが、異世界どころかこの世界の一部分しか知らず人間の形をした生物を人間と奴隷しか知らないのだから、どれだけ異世界の話をしようとそれは夢なのだ。
妖精は空を飛び、星を食べ、グラスの中で眠り、朝露で顔を洗う。声はないけれど動物の気持ちを理解し、日の光で空に絵を描き、風を育て、森を見守る。私達の作り上げた妖精の世界はこんなに美しい。きっと本当の妖精たちが暮らすところはここまで幸せに満ちてはいないだろう。
最後まで、夢物語に参加しなかった子もいる。トルパだ。彼女はエンド以上に口数が少ないが、客の前では私達の誰よりも話しているようだ。人によって態度を変える人間は嫌われる。でも、奴隷は嫌われない。客の前で精一杯、相手の望む奴隷になるのだから、人間のいない場所に帰ってくれば電力を切らしたランプのように静かになっても当然なのだ。豚以下しかいない中で、頑張る意味がどこにある?
トルパはあまり空想には口をださない。でも、話は聞いて居るようで時々口元がほんの少しだけゆるんだりするのだ。