12-9,奴隷に甘美は似合わない
私はどうやら死人に縁があるようだ。つい先日までは大量の死骸を土に埋めていたし、命の恩人で旅を共にする人物は死者であったし、そして今幽霊と距離を近くしている。
「僕の名前がチャックって言うことをお母さんだと名乗る人に聞いて、それから数日で死んじゃったんだ。優しそうなお母さんだったよ。髪の長い美人でさ。お姉さんも大人になったら僕のお母さんみたいになるかもしれないね。お姉さん、目がキラキラしていて綺麗だもの」
キザと言うと表現が悪いだろうか。彼は女の子が思わず照れてしまうようなことをあっさりと言うのだ。9歳の男の子になんて照れてあげないけど。2年前に死んでいるから11歳であると考えたとしても、まだ私より子どものはずだ。でも彼がどのような立場の人間であったかはわからないが、私よりも社会を知っている雰囲気や社交性を持っているのはアルマの器を使っているからだろうか。
「僕ね、この街で生まれたわけじゃないんだよ。暮らしていたのも殺されたのもここからずっと遠い街なの」
少し長い間黙りすぎてしまっただろうか。彼は私の顔を覗き込んでそういった。かまってもらいたい時に腕とお腹の間に頭を突っ込んでくるチェロを思い出させる。
「そうなのですか? では幽霊の御姿で移動を?」
「そうなんだよ。ずーっと長い距離を移動してきてへとへとになったよ。やっとこの街についたのは5日前なんだ」
この街で騒動が起きたのは4日前のはず。彼はこの街に着いてすぐ、目的に向かって実行をしたのだ。
「やはり、アルマ様に会うためにこの街にやってきたのですか?」
「うん。お兄さんにも、お姉さんにも、会いに来たんだ」
「私にもですか?」
「うん」
チャックは満面の笑みを見せた。アルマの顔面がぱっと明るく無邪気に幸せを前面に押し出している。もともと整った顔だから、笑っていても恰好が良かった。おそらくそれを伝えることは無いけれど。
「それでね、お兄さんとお話しをするために」
「はい」
「お姉さんの体ちょっとだけっ。ちょっとだけ貸して」
チャックは手を合わせて目をぎゅっとつぶっている。やはり私の体は使われてしまうようだ。幼い男の子が思春期に目覚めないことを願うばかりだ。
「お兄さんとお話しするのに使うだけだから。ねっ。ねっ。悪戯も、何にもしないから。お姉さんのこと困らせないからさ。ねっ、ねっ」
「疑ってなどおりませんわ。恥ずかしいですけれど、どうぞお使いくださいませ」
「ありがとう」
そのお礼の言葉は薄れゆく意識の中でうねったり歪んだりしながら聞こえた。まぁどんな存在なのか全くわからない人物に体を好きかってされるよりは何億倍もよいのだろう。ただ出来ればアルマとどんな話しするのかだけ知りたかった。知らないことが近くにあることの恐怖は、おそらく私の心臓の皮にしばらく噛みつくはずだ。もしかしたら仲良くなっちゃったりなんかしちゃって住み着くかもしれない。
私の目が覚めたのはお昼前だった。私は自らの部屋のベッドで寝ていたし、一人きりであった。ちゃんと毛布を掛けている。感覚として普段の寝起きと変わらなくて私は掘っとして状態を起こしたところで気が付いた。
服が、違う。膝丈の水色のAラインのワンピースを着ていた。首にはネックレスの感覚があり、私はぞっとした。。私は慌ててベッドから降りようとするとベッドの近くには真新しい革靴が置いてあり、私は慌てて鏡を見た。
首には服と同じく水色で光にあたるとピンク色が見えてくるまん丸のネックレスが光っていた。
良かった。
私は安心していた。
首輪が外れているため、ネックレスは自由に揺れ、自由に光っている。