12-8,奴隷に甘美は似合わない
闇を抱えた物憂げな男が悪戯っぽく笑う様はなんとも妖艶で美しい。私は不覚にもぼんやりしてしまった。あの性商売小屋から離れ過度な肉体労働から離れたために心が油断しきっているのだろうか。あってはならないことだ。
チャックはアルマを探していて話しがあるという。それはつまり、私の体に憑りつきたいということだろうか。おそらく男の子であろう彼に体を自由にされることは不快でたまらない。しかし、私が純粋な世間を知らない少女を偽るのならば、私は先にこれを言わなくてはならない。眉と目尻を下げて。
「死んでしまったのですか? あなたはまだ幼いように感じます。それなのに、なんて悲しい」
彼は靴を脱ぎ、完全に私の隣でくつろいだ。足をパタパタと揺らしている。
「うん。9歳なんだ。って言っても2年前に死んじゃったからずっと9歳のままなんだけどね。酷いよね酷いよね。無害な子どもである僕まで殺すなんてさ」
私は自らの心臓をぎゅっと抱きしめ憐れむ表情で彼を見つめてあげた。
「殺されてしまったのですか。なんて気の毒な話しでしょう。なんて恐ろしい」
「ほんとほんと。すっごく怖かったよ」
そう話している彼は微塵も恐いなんて思っていないかのように明るく楽しそうにしている。場の空気を悪くしないように気を遣ってくれているのだろうか。
不思議だった。奴隷という立場を忘れることは愚かであるというのに、彼とは非常に話しやすかった。それが年齢に理由があるのか器に理由があるのか生命的な価値に理由があるのかはわからない。
「それでね、僕、そのアルマってお兄さんとお話ししに来たんだけどね、折角だからお姉さんともお話ししたいなって。ほら、僕男の子だから」
「嬉しいですけれど、私はあまり話し上手ではないですよ。面白いお話しも出来ませんわ」
「えー。僕お姉さんのお話しもっと聞きたいのに。じゃあ、僕がお話しするよ。僕ね、いわゆる記憶喪失ってやつなんだ」
青年の格好をしたキザで悪戯っぽい人格がそれを言うとどうにも胡散臭い。嘘を話されているような気がする。
「記憶喪失、ですか? けれどチャック様は自らが、その、殺されたということも年齢も覚えているではありませんか」
年上の低姿勢な女に甘えたいのだろうか。彼は距離をつめ、私にほんのちょっともたれかかってきた。男性の割に長い髪が私の額をなぞる。
「幽霊になってから記憶がなくなっちゃったんじゃないんだよ。記憶喪失になって3日くらいで死んじゃったんだ」