12-6,奴隷に甘美は似合わない
ふかふかの清潔なベッドを独り占めして好きなように両腕を置き瞼を閉じるなんて奴隷になってから当然初めてだ。
私は一度服を脱いで空中で埃を落としてからもう一度着なおした。脳汁からとろりと滲む願望のままに過ごすのなら、一切の下着も身に着けず生まれたままの格好で、ベッドに埋まって平らになりたい。
気持ちが良い。肌に直接シーツが当たる感覚が。私は服を着たままベッドに転がるとあごをひき、誰もいないというのに上目遣いをして口をほんの少し開けて見せた。
ばかみたい。目尻から零れ落ちて耳の中へと涙が進んで行く。
何となくの確信があった。夢魔は私の体を乗っ取る。あの預言者の言う奴隷の私にはあり得ないような突飛な運命に、夢魔という存在はよく似合って居る上に、アルマが「心当たりがある」と言っているのだ。私は目が覚めるとこことは違う場所で数時間分の記憶を失って起きあがるのだろう。
そのことを考えると欲望に負けて素っ裸で眠るわけにはいかないのだ。裸体を恥ずかしいとは思わないが、自分の望んでいない形で馬鹿にされるのはまっぴらごめんだ。
私は自分の罪状を静かに受け入れる咎人のように目を閉じた。4日間はこの街に滞在することが既に決まっているのだ。歯を引っこ抜き眼球を抉って眠りに堪えても仕方がない。夢魔がとりつくなら早い方が良いだろう。
良い夢を見た。ロンド様とカリン様がシロップ漬けの白桃のような笑顔で私をお茶会に招待してくれたのだ。ラベンダー色の裾を揺らしてヘリオトロープの香りを輝かせ、私は二人の元へ駆け寄った。
純白の椅子に腰かけた私に紅茶を注いでくれたのは美しい長い髪を揺らしている天女のようなエンドだった。
「カラちゃん、ジャムをぜひクラッカーと一緒に」
「カラちゃんが喜んでくれると思って用意したんだ」
カリン様とロンド様の話を聞き、エンドがジャムの入ったガラスの器を私の近くに持ってきた。スプーンに反射して映る私の顔は潤いでツヤツヤしていて頬はふっくらとしている。
私は安心していた。この場にサキカがいないこと。ロンド様とカリン様が私をカラと呼んでいること。エンドが私と指を絡ませながら「淋しかった」と言ってくれたこと。
あれ、エンドはロンド卿の元で暮らしているのだろうか。妬ましい。
扉が開く音がした。首を揺らしたからシーツと髪がこすれる。夢と現実の境目で、室内の風の流れが変わるのを感じた。そして誰かが私のおでこを撫でるかのように触れた時、私は完全に目を覚まし飛び起きた。
ロンド様ではない、アルマだ。私は今どのくらいの間眠っていたのだろう。私はすぐさまベッドから降りて髪を指で整えた。
「アルマ様、どうかなさいましたか? 何か思い出したことでも?」
「うん、いや、ううん。そういうわけじゃなくってね」
あ、。