アテナ
正門前で話しかけられたとき、あまりにもまっすぐな青い眼と勢いに気圧されてしまい曖昧な答え方をしてしまった。すると彼女は俺の腕をつかみ、その瞳をらんらんと輝かせぶつかるんじゃないかという勢いで顔を近づけてきた。幸い彼女の身長はかなり小さく、背伸びしても俺の肩の高さしかなかったので事なきを得たが、揺れる金の髪とふわりとした甘い花の香りに気を取られているうちに校内に引っ張られて行ってしまった。
セミロングの髪を高めのメッシーバンでまとめ、スリムにそろえた深緑のジャケットとクリームのパンツ、漆黒のブーツと綺麗にそろえた機能性のある服装。迷いなくぐいぐい進んでいく歩調に軍人のソレを彷彿とさせられるが、魔法学校を案内する軍人などいるものだろうかという疑問もあった。
念のため言っておくが俺は初めてこのシモンのハコに訪れたわけではない。アンリの入学を前に数度、入学の手続きのために数度来ている。入り口でまごまごしていたのは果たして親代わりの自分が早々に出てきていいものかどうかという葛藤でしかなかった。
しかし、その旨を全く知らない目の前の小さな女性に話していいはずもなく、かといって今更冷たくあしらうのも相当申し訳なく感じるので、とにかくどういった形で軟着陸させようかと思考しているうちに、彼女は聞かれてもいないのにこの学校にまつわる様々なことを話していた。
最終的に所属のクラスと教室を聞かれたときに俺が生徒でないことを説明したことで、彼女の勢いは止まった。
「えっ?あっ、生徒ではないんですね」
と言っても教師ではないですし…と不思議そうにこちらを見る眼は動揺していた。一本気な性格なのだろう、生徒でも教師でもないのならあなたはどなたですかといいたそうにしている。
まぁ、親とするには不自然に若い俺を保護者だと考えるのは難しい。だが、そういったことは本来一番最初に聞くべき案件ではないのかとツッコみたくもなる。
「えー、一応、保護者ですね」
「うわー!失礼しました!ごめんなさい!あなたのこと見た目で判断しちゃって…」
と言いつつどんどん声が小さくなっていく。どうやら彼女のなかで一つ疑問ができてしまったようだ。
「すみません。私、まだあなたの名前を聞いていたなかったです。なんなら名乗ってもいなかったです。」
根が真面目なのか、キッチリと頭を下げて謝罪した後にたたずまいを綺麗に直して名乗った。
「私はアテナ。アテナ・ヘレイネスと申します。この学校で教師を務めさせていただいています。主に戦闘魔術を担当しています」
先ほどまでの朗らかな印象とは違い、射貫くような視線と隙のない姿勢。戦闘魔術の担当という言葉に一切の疑念を抱かせないほど説得力が、その小柄な女性からは出ていた。
「メイガスです。メイガス・シェリンフォード。少し、子供のことについて話がありまして…」
「生徒さんのことでお話ですか…」
ここまで話した後に、アテナのような人に話してしまったことを少し後悔した。出会ってわずかな時間ではあるが、自分の勤める学校の生徒について相談事となれば首を突っ込んでくるに違いないから。