泣くアンリ、困る俺
大事件が起きた。
それが自分の身に起きた出来事なら許容できるのだが、残念ながらそうではない。
アンリが泣きながら帰ってきたのだ。
一大事件である。
用意していたシチューも何もすべて放り投げ、アンリに問いかける。
「学校で何かあったのかい?」
何かなければアンリが顔をぐしゃぐしゃにして帰ってくることはないのだが、それでも聞いておかなければならないことだった。
何度も言うが我が家に金はない。制服があるから身なりはある程度ごまかせると思ったが、目ざとい同級生がいたのかもしれない。本人の希望とはいえ、やはり王都の魔法学校に通わせることはアンリにとって酷なことも多いだろう。可能な限りアンリに寄り添えるよう、どんなことでも相談できる環境を整えたい。
アンリは言葉がまとまっていないのか、はたまた俺に話すことに後ろめたいことがあるのか、何か言いたそうに何も言わず黙っていた。
「俺はどんなときでもアンリの味方だから、ゆっくり、話せることをまとめて、君の気持ちが落ち着いたら話しておくれ」
炎より紅い眼を潤ませて、アンリはうなづいた。
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温かいシチューをゆっくりと食べながら、アンリは自分なりの言葉で今日の学校で起きたことを話してくれた。
どうやら、ことの問題はアンリではなく俺が関わっている…ようだ。
教材が配られ、生徒の自己紹介が終わった後に、基礎魔法力の確認も兼ねて魔法の詠唱とその内容を教師に披露する時間があったらしく、その時にアンリは悪目立ちしてしまった。
アンリの魔法を見て、教師と一部の生徒が問いただしたところ、師事している俺の名前を出してしまった。
無名の、しかも王都では鉄の魔術師と呼ばれている俺の名前は、彼らが笑うには十分すぎる評価だった。
アンリは俺をかばったが、その擁護もまともに取り合ってもらえず、教師は最後まで俺のことを馬鹿にし続けていたらしい。
「僕の先生はすごい人なんです。でも、学校の先生は信じてくれなくて…」
悔しい気持ちは嬉しいが、対外的な部分では多分、学校の教師をしているその人間の方が凄い。だが、そんな大人の理屈を子供に話しても不用意に傷つけてしまうだろう。
かといって、決闘のようにその教師と魔術戦をして白黒つけるなんてことをしたくはない。十中八九勝てるが、それがアンリのためになるとも思えないからだ。
個人的には俺の教えと学校での教えを聞き、双方の納得できる魔術を取り入れて、自分の糧にしてほしいが、赤い瞳はそんな飄々とした案を受け入れてはくれないだろう。
「困ったな…」
魔術のことなら自信はあるのだが、学校生活に関してはめっぽう弱い。というのも、転生前はごく普通の学校生活を、こちらの世界に至っては学校にすら通っていなかったのだ。経験値が乏しすぎた。