とある村での山賊退治
寒村。その言葉がよく似合う集落だった。
王都からも、大都市、教会や観光地からも遠く、生産力を生活にあて、僅かな余剰を遠い隣町まで行き金に替えて辛うじて食いつないでいるようだ。
子供は遊ぶ暇無く労働し、大人は死んだ眼をしながら明日のことを考える。空の神様がほんの少し気まぐれを起こしただけで、彼らは生きる道を失うだろう。
「珍しいですか?こんな村が」
しゃがれた声が自虐と驚きを含ませて響く。前を歩く村長は、そう言いながら浅黒い顔をこちらに向けた。
「まぁ。依頼さえ無ければあまりこのような村には寄らないものですから…」
「素直じゃのぉ…」
白髪だらけの頭をボリボリとかき、ニタリと薄気味悪く笑う。ボロボロになった衣服を整えたとき、裂け目から覗かせた胴体が、瘦せ細っているのをみていたたまれない気持ちになる。
「じゃが、都からギルドの人間が来てくれて、助かったわぃ」
ワシらにはどうすることも出来んでな。と、村長はぼやく。
「まだ、駆け出しですけどね」
過度な期待をされても困るので、自分がまだまだ経験の浅い人間だと言うことは伝えておく。
「それでも、魔術師様じゃて、ありがたいことです」
ニヤニヤと笑いながら、村長は村の中心にある家へと案内した。恐らく彼の住居であり、集会所でもあるのだろう。他の建物に比べれば幾分か広く、土で固められた壁もしっかりと作られていた。
「単刀直入に言えば、攫われた村の子を助けて欲しい」
村長の家には、彼の息子だと言う男がいて、事の顛末を話してくれた。
最近になって、村の子供が失踪する事件が立て続けに起きた。
大人達が調べたところ、北の山に賊が居るらしく、子供を攫って強制的に労働させていることが分かり、救出しようとしたが、返り討ちにあった。
これまでも街のギルドに依頼してきたが、全員が山賊の手に落ち、生きて帰ってくることは無かった。
「そんなわけで、八方ふさがりだったところに、アンタが来てくれた。本当にありがたいことだ…だが、勝てるのかい?」
説明が終わったところで、息子が訝しむように聞いてきた。
「気を悪くしたならすまん。が、今まできた連中も失敗続きでな、正直不安なんだ。アンタはーー」
「メイガスだ」
「…メイガスさんは、村長から聞くに王都のギルドに所属しているとはいえ、駆け出しだそうじゃないか。勝算はあるのかい?なんだったら村の者も協力するぞ」
机を挟んで向かいに座る息子は、落ち着いた物言いで提案をする。隣に座っている村長も息子の言葉に頷く。どうやらあまり期待はされていないようだ。まぁ、それもそのはず、いくら食に乏しいとは言え、毎日働いている村人達と比べ、俺の身体は細い。魔術師としての力も見ていないので、彼らの価値観からすれば疑問を持たれても不自然ではない。
「いえ、大丈夫です。私一人でやりましょう」
「…そうか、出発は明日かい?たいした物は無いが食事は提供するぜ」
「いいえ、食料は手持ちのもので充分です。そして、出発は明日ではありません」
「明後日か…こう言っちゃなんだが、早くしてくれると村としては助かるんだが、無理強いは出来ないな…」
「…あなたはなにか勘違いしていますが、私は今すぐ山賊を討ちに行きますよ?」
初めて、息子の顔に動揺が走った。
「なっ、大丈夫なのか!?そんな急に!」
「山賊とはいえギルドの人間を倒すほどです。恐らく村を監視する密偵も居ることでしょう。そいつらが住処に着き、対策を練る前に叩くべきなのです。それでは、失礼します」
「待てっ!おいっ!」
「それともなんですか?あなたは山賊達にその猶予を与えても良い。と考えているのですか?」
そう言うと、焦燥とも驚愕とも取れる表情に、脂汗をたっぷりとトッピングした息子の顔が引きつり、それ以降は何も言わなくなった。村長は絶句したまま、何も言わない。
「大丈夫ですよ。私は駆け出しですが」
「とっても強いんです」