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シモン・イグニス

「それは災難だったねぇ」


細目を一層細くして、満面の笑みで同情の意を示すのは校長のシモン・イグニスだ。

漆黒のパンツスーツがシャープな体格をより強調させ、元居た世界のキャリアウーマンを彷彿とさせる。

燃える炎のようなストレートのロングヘアーが、ケラケラと笑う彼女に合わせて揺れると本当に燃える炎かと錯覚する。


校長室。アテナが強引に連れてきたその様をみて、シモンは事情を聴いた後にアテナに礼を言い即座に帰した。勢いよく彼女が帰っていった後、校長の威厳とは程遠い、子供のような笑い声を彼はあげた。彼女は災害みたいなものだから気にするなと励まされたが、言い換えてみれば防ぎようのない事象なのでどうしようもないということだ。


「災難を抱えてきたら災難に会うとは、まるで小説の主人公のようだねぇ」


愉快痛快という言葉通りに笑い、喋り、手を叩き、周りのことなどお構いなしに騒ぐ。噂には聞いていたが変わり者だというのは間違いないようだ。

見た目こそ20代の後半くらいの若さだが、彼が初めて世界に名を轟かせたのは”リシュオンの盟約”が破棄された後の各所の独立闘争からだ。傭兵から軍事顧問など連合側に対抗する諸国を渡り歩き、時には前線に出て、時には武力組織の構築に尽力したが、その破天荒な性格が災いして権力者に快く思われず、最終的には放逐、追放をされ流浪していたところをフィールメサイアの魔法学校の初代校長としてスカウトされたらしい。なるほどたしかに言葉を選ばない物言いや感情をそのままに出す性格は反感を持たれても不自然ではない。


「メイガスくん…でいいかな?ええっと、あぁなるほどアンリ…くん?か、あーなるほどなるほど。なんとなく君が来た理由もわかった気がするよ」


一瞬、鋭い目が僅かに開いた。金色の瞳は猫の目のようで、まるで獲物を捕らえるかのような刺すような視線に、思わず身が強張る。シモンは構える俺の姿に気づき、すぐにその目を細くして隠すように笑う。


「いやー、申し訳ない。昔の癖が抜けなくてね、ついつい人を見定めるときに威嚇してしまうんだ。大丈夫、君に敵意なんてないよ。ただ…」


少し言いにくそうに、はたまたそのふりをしているのか、しばらく指先をいじりながら彼女は沈黙した。


「アンリの魔法をみた魔術師の報告を聞く限りでは、彼の…というより彼に魔術を教えた人間は相当の風変りなんじゃないかなーって思うんだよ」


僕以外の人は気づいていないだろうけどね。と付け加えてシモンは再び笑った。その笑顔は、先ほどまで見ていたソレとは違う、不気味な笑みだった。


「君が来てくれて手間が省けたよ。少し、魔術談義といこうじゃないか」

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