いつか、どこかの場所で
ずっと一緒に――と、いつか誰かが言った。
幸せになって――と、どこかで誰かが言った。
その顔も、声も、今となっては思い出すこともできない。
そもそも、今がいつで、此処がどこで、自分が誰なのかすらも忘れてしまった。
けれど、ひとつの約束だけは覚えている。
かつてどこかで、誰かに誓ったのだ。
――守る、と。
君がそこにいるから、その居場所を守り抜くと決めた。
なにもかもを忘れてしまった今でも、そのことだけは覚えている。
約束。
その言葉に、いちばん大事なそれとはまた別の場面が蘇る。
切り取られた一枚絵のような映像。
色を失い、至る所がひび割れて、詳細を見て取ることはできない。
ただ、誰かがなにかを言っていた。
胸に去来するのは、罪悪感。
だから。
嘘を嘘でなくするために、罪を罪でなくするために、なにかを決意した。
誓った。
大きな約束と、小さな約束。
そのふたつが、今でも自分を動かしている。
いつかの、どこかの、誰かに向けて、告げる。
――君の生きていく居場所を、今もこうして守っているよ。
――君が幸せに生きていくための世界を、守っているよ。
――だから、幸せです。
――君が幸せに生きているなら、それが僕の幸せなのだから。
だから、今もふたつの約束を守り続けている。
なにもかもを忘れてしまった自分にとって、それだけが全てだったから。
光射すことのなき世界で。
そうやって、幸福に満ちた時を過ごしているのだ。