株式会社地獄 4
「おい兄ちゃん! 大丈夫か……?」
おじさんが心配そうに俺の顔を覗き込んで来た。とても罪人とは思えない。すげえいい人だ。やっぱり極道は違うのか?
俺は今、やっと今日の罪を終え、再び牢獄に戻されていた。
「あ……あ……」
しかし、そのおれ自身はまともな言葉をしゃべれなかった。圧殺刑の傷は完全に癒えていたが、心が負ったダメージは凄まじかった。
「まあ、最初は皆そんなもんだ。そのうち慣れるさ……しかし、お前さんは変わってる。ここに居る奴らは皆目が濁っているもんだが、お前さんはそんな感じがしないな。まるで堅気の人間だ」
堅気です。俺は堅気なんです。何で俺はこんな酷い目に遭ってるんですか?
「まあ、そろそろ食事の時間だ。ここでの唯一の娯楽がこの食事だからな。しっかり食って、元気出せよ」
おじさんは俺の肩を叩くと、暗闇の中に消えていった。
食事? こんな状況で? 食えるか、そんなもん……。食欲どころか、何もやる気がしない。気が狂えたらどんなに楽だろう。
そんな事を黒く窪んだ目をしながら考えていると。
『キーン、コン、カーン。お兄ちゃん食事の時間だよ。食堂に移動してね』
チャイムと共に、そんなアナウンスがされる。
さらにぴたぴたぴたと廊下から足音が聞こえてきた。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん。ご飯の時間だよ、今鍵を開けるからね~」
姿を現したのは小さな女の子。俺を地獄に来て初めて殺した女の子結衣だった。
カチャリ、牢獄の鍵が開けられる。それと共に牢獄に居た物達が動くのが感じられた。皆黙って、牢獄の外に出て行く。
しかし、俺は地面に座り込んだままだった。食事なんかしたいはずが無い。
「おい、兄ちゃんどうした。飯の時間だ。立ちな」
「…………俺はいいっす」
俺が死んだ様な目で答えると。
「馬鹿野郎! これは俺達の義務なんだよ! しっかりしろ。それにな、食事はちゃんと取らなくちゃならねえ。ここで俺達に出来る人間らしい事はそれだけなんだからな! ほら、立て! また罰せられるぞ!」
おじさんは乱暴に俺の腕を掴むと立ち上がらせた。
俺はおじさんに引きずられる様に牢獄から出る。
俺はふらふらと最後尾に並んだ。それを結衣が確認すると。
「じゃあ、しゅっぱぁ~つ!」
号令と共に集団は暗闇の廊下を規則正しく歩き続けた。