株式会社地獄 3
「う……うぅ……。何処だここは?」
俺が目を覚ますと、そこは布団の中だった。首を回して周りを確認する。
そこは紛れも無く実家の俺の部屋だった。見覚えのあるスポーツ選手のポスター、机、オーディオ機器。
「何だよ……夢だったのかよ……」
ほっと息を吐く。リアルな夢だった。過去最大級の悪夢だ。しかし、よく考えればあんな物、現実に有るはずがない。
「ていうか俺オネショしてねえだろうな」
夢の中で失禁しまくっただけに俺は気になって布団をどけて確かめようとする。
「あ、あれ? おかしい体がうごかねえ!」
俺の体はピクリとも動かなかった。金縛り? 俺がそう恐怖を感じていた時だった。
「おにいちゃ~ん朝だよ~」
階段の下から可愛らしい高めの声が聞こえてきた。しかし、その声に俺は身も凍る様な恐怖を覚える。
「い、妹? 俺にはそんなもんいねえぞおおおおおおおお!」
タタタ! 階段を駆け上がる音がする。分かるだろうか? 全く身動き出来ない状態で得体の知れない物が近づいてくる恐怖が。
「お兄ちゃん? いつまで寝てるの? もぉ~入るよ?」
「入るな! 入ってくるなぁああああ!」
俺の叫びも虚しく、カチャリとドアが開けられる。
「もう~妹に入るな何て酷くない? あ、もしかしてお兄ちゃんエッチな本とか読んでた?」
「読んでねえ! つうかお前の兄じゃねえ! 何なんだお前は」
そこに居たのは光るような金色の髪をツインテールにした少女だった。大きな目が可愛らしく。表情が輝いている。そして例によってその頭には黄色い角があった。
畜生! 夢じゃなかった! 続いてる! 現実という悪夢はまだ続いてる!
「もう~ひどいよ~。舞はお兄ちゃんの妹でしょ? いつまでも寝ぼけてないで早く起きてよ!」
「起きたいよ! ていうか起こして! この布団、全く動かないのよ! 助けて! 助けて下さい」
俺は必死に懇願する。しかし、台本でも決められている様に話は続いていく。
「もぉ~お兄ちゃんはしょうがないんだから」
舞は俺から距離を取った。俺は嫌な予感がして、全身から汗が吹き出る。
「おいおいおい! 何するか分かんねえけどやめろ!」
「お兄ちゃ~ん! 起きて~!」
舞は助走をつけて跳んだ。高らかに。まるでプロレスラーがトップロープからムーンサルトを決める様に優雅に力強く飛んだ!
そしてそのまま俺の上に布団越しにダイブする。
メキメキメキメキ!
俺の肋骨からの音だった。
「ゲブ! がはぁ……ガハ!」
俺の肋骨をバラバラにする様な衝撃が貫ける。舞は細身なのにまるでタンクローリーにでも落ちて来たのかと思う衝撃だった。
俺は口から血を吐いた。肋骨が心臓や肺に突き刺さり。即死していないのが不思議な位だ。
……苦しい! 尋常じゃなく苦しい……。痛みが去っていかない! 痛い痛い痛い!
「起きたお兄ちゃん?」
舞は笑っていた。その笑みは可愛らしい。見る者を惹きつけてやまないだろう。
俺の目尻から涙が流れた。そんな笑みに感じたのは恐怖だけだった。
「坂本さん、これが圧殺刑です」
どこからか、聞き覚えのある声がする。俺は助けを求める様に声の主を探す。
その人物は枕元に立っていた。やはり頼子だ。しかし、見下ろす視線は何故か冷たい。本当に鬼の様だった。
「た、助けて……」
俺は掠れた声を出した。
「……駄目なんです坂本さん。貴方はこれから百回この刑を味わって貰います。それまで貴方はその布団から出る事は出来ません」
その言葉は深い絶望を俺にプレゼントした。
百回? 今の苦しみを百回? まだ苦しいのに、これを百回も? 耐えられない。俺は耐えられない! 怖い怖い怖い怖い怖い! 助けて! 助けて! 助けて! 神様助けて!
俺の上に乗っている舞が顔をキスをするほど近づけた。
「お兄さん、可愛い。一杯いじめたくなっちゃう。地獄へようこそお兄ちゃん。後百回一緒に頑張ろう! 途中で他の子に浮気したら嫌なんだからね♪」
『チュッ』
唇に軽くキス。俺は…………。
「あぁ嗚呼アアアアあああああああああああああああああああああああ!」