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株式会社地獄 2

「お兄ちゃ~ん! お仕事の時間だよ~!」

 カンカンカンと、金属の鳴る音が聞こえる。俺が音の方を見ると、さっき来た結衣よりも大きい、制服を来た高校生くらいの可愛い赤髪の女の子が、フライパンの蓋をお玉で叩きながら歩いてきた。頭には赤い角が生えていた。制服の胸の部分には彩夏さやかというネームプレートがつけられている。

 その姿だけ見るならまるでギャルゲーの妹キャラの様だった。しかし、俺の後ろに居る方々はブルブルと震えている。

「あの~お仕事ってなんすか?」

 俺は嫌な予感がしながら、おじさんに尋ねる。

「……し、仕事って言うのは、そのままさ、地獄に来た者達が受ける物、そ、それが仕事さ」

 その事を口に出すのも躊躇われるとでも言う様におじさんの唇は真っ青で、顔には血の気が無かった。

「はいはい! お兄ちゃん達! おしゃべりしないの! もうお仕事の時間だよ。鍵を開けるから、いつも通りに私について来てよ!」

 そう言って牢獄の鍵を開ける。そこから、順番に重い表情をして全員が整列した。

 いきなりの事で俺はついていけず、おどおどしていると。

「ほら! お兄ちゃん。ちゃんと並ばなきゃ駄目だよ~。お仕置きしちゃうぞ」

 楽しそうに笑いかけてくる。俺はぞっとして、すぐに最後尾に並んだ。

「うんうん! よしよし、皆良い子だね! じゃあお仕事に出発~」

 そのまま全員が歩き出そうとする。が、一向に進まない。俺はどうしたのかと前を見ると先頭の男が止まっていた。

「……俺はもう嫌だ。こんなの……死んだほうがマシだ。嫌だ! いやだ! イヤダぁああああああああああ!」

 細身の男は俯いて物々呟いたかと思うと、急に赤髪の女の子、おそらく、彩夏と言う名前なのだろう。その子に飛び掛った。

「ばか! 辞めろ!」

 おじさんが叫ぶ。

「あ~あぁ。悪いお兄ちゃんだな~お仕事したく無いなんて。そんなの。だ・め・だ・よ♪」

 彩夏は笑いながら、フライパンの蓋とお玉を自分の目の前にかざした。するとその瞬間、蓋とお玉が両方とも大きくなった。直径で三メートル位だろうか。とにかくいきなりでかくなった調理器具に俺が驚いていると。

 そのまま彩夏は大きくなった調理器具で、男をべチャリとはさんだ。

 びちゃびちゃびちゃと、お玉と蓋の間から血が滴り落ちる。彩夏がはさんでいた物を離すと、まず内臓がずるりと降りてきた。それに続く様に目玉、口、脳みそ、心臓と、ぐちゃぐちゃになった臓器が出てきた。

「うぉおええええええ!」

 俺が地面に嘔吐していると。更に異変が起きた。

「痛い……痛い、痛いよ~」

 俺が声のする方を見ると、バラバラになった男の口だけが動いて、言葉を紡いでいた。

 その光景にまた俺は吐いた。正直気持ち悪かった。光景は現実身が無いのに、流れてくる臭いはあまりにもリアルだった。

「はいはい! みんな~! このお兄ちゃんみたいになりたくなかったら、ちゃんとついて来てよね~。ああ、このお兄ちゃんどうしよう? しょうがないから今日は釜茹でにするかな~」

 そう言って何事も無かった様に歩き出す。それに続く様に行列が再び歩き出す。

 びちゃびちゃになった男はどうなるのか俺は後ろを振り向くと。清掃服を着た角の生えた女の子がモップとバケツを持ってやって来て、男を床の汚れを掃除するように流していく。その間も男の苦痛に悶える声が聞こえて来て、俺はブルーな気持ちになる。

 俺達は静かに廊下を歩かされた。この廊下の先にある物を想像すると俺はその場でさっきの男の様に叫び出したくなった。しかし、そんな事をすればどうなるかはさっきの事で十分理解したが。

「はぁい、到着~。じゃあ皆~それぞれの担当の所に行って、お仕事頑張ってね!」

 そんな事を考えてる間に目的の場所に着いたらしい。

 そこは役所の様な所だった。カウンターがあり、角の生えた女の子が、書類の整理などをしていた。

 行列に居た人々は様々な所に散って行った。俺はおじさんにどういう事か聞こうと思ったが、そのおじさんも早々と何処かに行ってしまった。

 俺がどうしようかと戸惑っていると。

「あれ~お兄さんどうしたの~? お仕事は?」

 さっき俺達を連れてきた、彩夏が声をかけて来た。その様子は可愛らしい優しい女の子だったが、正直嬉しくない。

「いや……どうしたらいいんすかね? 俺は」

「あ~もしかしてお兄さん新人さん? なんだ~先に言ってよね~。え~とじゃあ、説明するよ? まずはお兄さんは始めての人だから、そこの受付に行って、まずは担当を決めて貰らってね」

 彩夏がカウンターを指差す。

「後はその担当が、色々と教えてくれるから。お兄ちゃんはその担当さんの言う事を良く聞くんだよ? いいね? 分かった?」

「は、はい。分かりました」

「うん! いい返事! さぁ~て、私もお料理の準備しなきゃ。またね! お兄さん!」

 そう言って彩夏は何処かに走り去ってしまった。

 とりあえず俺は言われた通りにカウンターに行く事にする。

「あ、あの今日入った新人なんですけど……」

 俺はおどおどしながら事務の子に声をかける。

「あ~。順番なのでそこにある札を取って、お待ちください~」

 客も居ないのに本当に役所の対応みたいに流される。俺は仕方無く。受付の横にある紙を引っ張った。

『ピンポーン。一番の札をお持ちのお客様』

 電子音が鳴る。一番。俺だ。ここのくだり意味あんのか?

「あの~すみません」

 俺は札を渡す。

「は~い。今日はどうされましたか?」

「え~と、今日入った新人なんですけど」

「ああ、新人さんですか。じゃあ、まずは担当さんですね」

 そう言うとカタカタとパソコンらしき物を叩きだした。

「ご希望の担当のタイプはございますか~」

「は? タイプ?」

「ええ、タイプです」

「あの~説明して貰えますか?」

「はい、担当さんにも色々いますから。SM好きな方、優しい方、ハードな責めの方、焦らしが好きな方、癒し系と。皆さん個性豊かですよ。自分の罪を悔い改めたいという方はハードな責めな恭子さんがおすすめです~」

 俺は戸惑う、何か如何わしい店のキャッチフレーズみたいだ。

「え~と、良く分からないんで。優しい子で」

「はい、優しい子ですね。じゃあ、頼子ちゃんかな~」

 そう言うと、受付の子は何処かに電話し始めた。

「あ、フロントですか? お疲れ様です。ええ、担当の件です。ええ、頼子ちゃん指名入りました。はい、はい。え? 本当ですか? やった~。その日、非番なんです~絶対行きます~」

 笑顔で電話をきった。何か最後の方は俺とは関係ない話をしてた気がする。

「正式に頼子ちゃんに決まりました。詳しくは彼女に聞いてください……お兄さんラッキーですよ。頼子ちゃん可愛くて、期待の新人ですから」

「は、はぁ……」

 正直全然嬉しくない。

「じゃあ、そこら辺の席で待ってて下さい。すぐに頼子ちゃん来ますから~」

 そう言うともう話は終わったという様にポーチをガサガサといじると、マニキュアを取り出して長く尖った爪に塗り始める。

「あ、ちょっとはみ出しちゃった」

 ――自由だなおい!

 普段の俺なら突っ込んでいただろうが、ここではうかつに突っ込めない。突っ込んだ瞬間、あの鋭い爪で抉られる気がする。どこかしら。

 俺は黙って椅子に座った。俺以外、人は居ない。ここの場面だけ見ると良くある光景なのに、状況は限り無く異常だった。

 俺はうなだれる。マジ夢なら覚めて欲しい。

 その時、タッタッタという音が聞こえてきた。

「はぁ、はぁ、はぁ。お待たせしました……」

 俺が見上げると、そこには眼鏡をかけた女の子が居た。髪は茶色で長くさらさらしている。こんな状況なのに俺は見とれてしまった。ここの女の子は皆可愛いが、この子は俺にとっては別格だった。瞳が輝いて見える。

 呆然と見上げる俺に焦った様に女の子は挨拶する。

「株式会社地獄、拷問部、会計課所属、二級従者の頼子よりこです。新人で担当は坂本さんが始めてですけど、頑張ります! よろしくお願いします」

 深々と頭を下げる。

「い、いえ、こちらこそ。よく分かんないけどよろしくお願いします」

 俺も頭を下げる。そうすると向こうもまた恐縮した様に頭を下げる。それを見て俺も再び深々と頭を下げる。キリがねえ……。

 頼子もそう感じたのか、本題に入る。

「じゃあ、挨拶はこのくらいで早速行きましょう」

 頼子が歩き出そうとする。しかし、俺は肝心な事を聞いていない。

「ちょ、ちょっと待って!」

「はい? 何でしょう?」

「俺、ここ来たばかりでまだ良く分からないんだけど、仕事って何するの?」

 俺が疑問を言うと、頼子はしまったといわんばかりに顔を赤くした。

「あ、あ、そうでした! 新人さんへの説明義務を忘れてました~。減点されちゃいます~。う~」

 そのままうなだれる頼子。

「だ、大丈夫。誰にも言わないから」

「ほ、本当ですか! ありがとうございます~」

 満面の笑みで俺の手を握り締める。

「せ、説明をお願いします」

「は、はい! そうでした。え~とまずここは生前罪を犯した者が来る所。魂の終着点、地獄です」

 そこは知っている。おじさんに聞いた。

「え~とここでは、その人の罪に合わせた罰を与える事で、その人を浄化すると同時に、その罪によって不幸になった人の恨みを晴らすという、一石二鳥な機関です」

 やっほう! 一石二鳥! ……笑えねえ……。

「ちなみに、罪もランク分けされていて、EからAランクまであります。まあ、特例でSなんてありますけど、まあ、これは大量破壊兵器で虐殺を行ったトランジスタ・トーマス以来出てませんけど」

 トランジスタ・トーマス。稀代の天才科学者だ、教科書で読んだことがある。悪魔の様なウィルス兵器を作って世界中を恐怖のどん底に落とした。それが原因で、起きた戦争を含めれば、数千万人の殺戮に関わったとされる大統領よりも有名な人物。

「ちなみに、坂本さんの罪は…………あれ?」

 頼子が何か驚いた様に眼を見開くと、眼鏡を取って眼をこすると再び眼鏡をかけて資料を凝視した。

「あれ、あれ? おかしいな。これ間違いかな?」

 頼子があたふたし始める。そんな事されたらすげえ不安になって来る。

「あの~どうしたんすか?」

「あ、すみません、ちょっと待ってください。今本部に連絡取りますから」

 頼子は胸ポケットから角が生えた携帯電話らしき物を取り出すと何処かに連絡を取り始めた。

「あのすみません。新しく入った坂本さんの事なんですけど……ええ、ランクの事です。はい、はい。え? これ間違いじゃないんですか? えぇ! 私じゃ無理ですよぉ…………へ? 私からはキャンセル出来ない? そんな~。はぁ……はい、はい。分かりました~」

 ため息をついて電話切る。

「ちょ、ちょっとマジなんなんすか? すげー気になるよ! 怖いよ!」

「えっとどう言ったら良いんでしょうか? 困ったなぁ……坂本さん、ご自身のランクいくつだと思います?」

「へ? 特に悪い事してないし、まあ、Eランクくらいじゃないですか?」

 若干の期待を籠めて俺が言うと、頼子は気まずそうに視線をそらす。

「坂本さんのランクは……Sです」

「…………うん? S?」

「はいSです」

 体中の毛穴が開く。

「Sって最低ランクだったけ?」

「いえ、最高ランク。稀代の悪人が得られる称号。Sランクです」

 俺はその場に倒れ込んだ。正直失禁していない事が奇跡だった。

「きゃあ! 大丈夫ですか? 坂本さん!」

 頼子が俺を抱える。その腕は柔らかい。このまま眠ってしまいたいがそんな場合でもない。

「いや、マジちょっと待ってくれない? 俺さあ、ここに来るほど悪い事してないんだけど。何でSランクなわけ?」

 俺が尋ねると、頼子はぺらぺらと資料を捲り始め、やがてその手を中ほどのページで止めた。

「……ありました。坂本さんの罪状が。お聞きになりますか?」

「あたりまえでしょ! ていうか絶対間違いでしょ!」

「……では読みます。坂本一輝。この者は、人生の中で、自分の役割を果たさず、また違法な手段で地獄に入獄した為、本人の強い希望も配慮し、この者を地獄裁定によりSランク罪人と認定する」

 頼子がそのページを見せた。最後の方に、閻魔女王という印鑑がでかでかと押されていた。女王の顔入りで。ピースサインをして笑顔だった。

「ふがああああああああ!」 

 びりびりびりと俺は力一杯その資料を破り捨てた。

「ああぁぁ……大事な資料なのにぃ。何するんですか!」

「納得いかねええええ! 俺、別に何もしてないじゃん! ていうか違法な手段って何!」

「何ですかねえ……ちょっと良く分からないですけど……」

「分からないですけどって! しかも、ちょっと待って! 俺は別にSランク希望した覚えないんだけど、どういう事? いつ俺こんな希望したの?」

「いえ……そんな事私に言われても……この裁定は一度決まったら絶対覆らないんです…

…」

 意識が遠のく。何だそれ訳わかんねえ……。

「…………それで、俺ってどうなっちゃうわけ?」

「そうですね……もう、坂本さんが資料破るから、調べるのが大変……え~と坂本さんはこれからありとあらゆる地獄を体験して貰う事になりますね~。えっと年数は、現世で言う所で四十六億年くらいでしょうか?」

「四十六億か~。長いな~って、ちょっと待って! 長すぎるでしょ! 地球誕生から? どんだけなのよ! 神様だよねえ? そんなに長かったら神の領域に入っちゃうよ!」

「ちょ、ちょっとそんなに詰め寄らないでください! きゃあ!」

 頼子に突き飛ばされる。俺は二十メートルほどずるずると吹っ飛ばされた。

「馬鹿な……そんなの耐えられるわけねえ……あ……駄目だ」

 俺の股間からちょろちょろと水音が聞こえてきた。俺は今、完全に失禁していた。しかし、力が入らず止める事が出来ない。蛇口の様に永遠と垂れ流し状態だった。

「だ、大丈夫ですか? 坂本さん?」

 頼子が心配そうに覗き込んだ。

「……大丈夫じゃないです」

 しかし、その返答に頼子は困った様な顔をする。

「えっと、でも、もうお仕事に行かなくちゃ、ここでぼーとしていたら、懲罰部の方にお仕置きされちゃいます」

 頼子が俺の腕を掴んで立たせる。俺みたいなリアクションは慣れてるのか、失禁した事は気にならないようだった。

 俺はふらふらと立った。正直一瞬でも気を抜くと倒れてしまいそうだった。

「あ、そうそう。新人さんに会ったら、まず言わなきゃいけない事があったんだった!」

 頼子は咳払いをした。

「え~と、地獄へようこそお兄ちゃん! 四十六億年間、一緒に頑張ろう! 途中で他の子に浮気したら嫌なんだからね♪」

 にこっと可愛い妹スマイル。それを見て俺は……。

 笑いながら失神した。


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