第6話 初日
カァンッ! カァンッ!
森の中、木刀同士が激しくぶつかり合う音が木霊する。
「でやっ!」
「踏み込みが浅いわよ!隙がある!」
木刀がレイさんに届きそうなところで、下に回り込んだレイさんに攻撃される。
「うっ!?ま、参りました......」
「はい、お疲れ。まぁでも初日にしては結構掴めてる方よ?様になるのにはあと数ヶ月は必要だけどね...」
「どうもありがとうございます。
本当にレイさんって強いですね...まるで歯が立ちません......」
「そりゃあこれでも元先鋭部隊なんだし、香苗は無経験だったんだから当然よ。飲み込みは早いからこれからね!」
私は今、レイさんに刀術を教えてもらっている。これからも一日に数時間、レイさんと刀を交わす予定だ。レイさんは慣れたら本物でやるとか言っていたけど大丈夫なんだろうか?
「もう朝からずっと特訓で疲れたでしょ?そろそろ昼ご飯にしようか!」
「はい賛成です!腹が減っては戦はできませんね」
「うん。じゃあ一緒に作るか」
二人で家の中に戻る。
この周囲は森ばかりだが、それが功を奏し木の実やら動物やらが多く獲れる。
家の後ろにはそこそこ大きい畑があり、材料が足りない場合はそれで賄っている。
「私はお肉を刻むから香苗はこの玉ねぎを刻んでくれる?」
「じゃあこれ終わったら人参とかも切っときますね」
前世では両親が先に他界していたので料理のことに関しては結構慣れている。
だから玉ねぎをみじん切りにする時も素早くこなし、人参もすぐ切って茹でる。
肉と玉ねぎとパン粉をこね焼いている内に、キューブ状の人参と玉ねぎが入った鍋にコンソメっぽいものを入れてグツグツと煮込む。
ソースは材料が無いので塩胡椒を振って完成だ。
「ん〜美味しそう!運動した後はやっぱり飯よね。飯。二人だとスピードが違うわ。じゃ、いただきまーす!」
「いただきまーす!」
出来上がったハンバーグと野菜スープを口に運ぶ。
「おおっ!普段より美味しい気が...」
「森の中の食材だけだとは思えないですね。」
「ほんと、香苗って家事とか慣れてるよね。私の面目丸潰れよ〜」
レイさんは苦笑いで、でも楽しそうに話している。
私もこういう時間が何処か懐かしくて、つい会話が捗ってしまう。
「まぁ慣れてますから。そういえばレイさんって一人暮らしだから自給自足だったんですよね?食材とか毎日採ってたら大変じゃないですか?」
「普通なら毎日採りに行くところだけど、私には魔法があるから!」
「魔法?」
氷系統の魔法だったら冷凍保存とかできそうだけど...
「私の固有魔法に"結界魔法"っていうのがあってね。それを応用して生物とかは保存してるわ」
「そういう使い方もあるんですか...」
戦闘用魔法を日常的に使えるように応用する...か...
アイデア次第でできることも増えるのか。
「ごちそうさまでした。じゃあ外で練習してますね!」
「ん!ひってらっはい! (いってらっしゃい)」
まだ食べてるレイさんに言って外に出る。もちろん食器を洗うのを忘れずに。
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「この...憑依ってなんでしょう?
二体使役は大体分かりますが…」
恐らく二体使役はその名の通り、人形を二体使役することができる魔法だと思う。
しかし憑依は予想がつかない。取り憑くってことかそれとも...
「取り憑かれるってことでしょうか?
『憑依、天使』」
魔法を発動するとすぐに身体が光り出す。それは人形を使役する時と同様、僅か数秒で消えた。
「これは...凄いですね...」
見ると白い翼が生え、髪の色もそれに合わせて白くなっていた。
「もしかしてですが魔法が使えたりして...」
そう思い大弓を創作し、構えてみる。
「イメージ...イメージ...」
矢を引くイメージをすると緋色の光を放つ矢が創造され、試しに力を込めてみる。
「どんなのか分からないですけど、強めで...」
魔力を多めに込めると光がより眩くなり、空気を裂くような音が聞こえ始める。
「なんかやば...」
眩く光を放つ矢を見つめていると徐々に音が増し、終いには耐えきれなくなってひとりでに飛び出す。
(あっ)
ズドドドドドドドバァン!
木が何本か薙ぎ倒された後、遠くの方で爆発音が鳴り響いた。
直後、爆風が襲い、遠くからキノコ雲が空へ向かっていくのを確認することができた。
「うわぁ...力加減を間違えてしまいました...」
「どうしたの!?何か物凄く大きな音が聞こえたけど......ってあれ?香苗亜人族だったっけ?」
「いや、新しい魔法を試したらこうなって...」
「そうなの?まぁここは比較的魔力が多いから森の再生力は高いけど、魔物が来るから控えめに使ってね」
後にレイさんに聞いたのだが奥地に行くほど強力な魔物が出やすいという。その為、この周囲は凶暴なものが多く生息しているらしい。
「でもこのくらいだったら実戦できるけど...やってみる?」
「はい。私も早めに慣れたいので...」
「そう。でも今日は刀術の特訓だからやるとしても明日になるわね。
家の周りは魔物が近づかないようにしてあるから遠くに行かないと」
この後も暫く特訓を続け、大体のイメージは掴んだ。
迷宮以来、魔物と対峙したことがないので今の実力は分からないが、あの時みたいにはならないと思う。たぶん。