第5話 レイさんとの出会い
私は身体の熱さが段々と冷めていく感覚に襲われているのを気絶している中で何処と無く感じ取っていた。
自身が深い海の中に落ちていくような感覚。
前世でも味わったことはないが、
自分の状況くらい薄々理解していた。
...これは"死"の感覚だと。
私は人目につかないところで誰にも知られずにひっそりと骸になってしまうのか?
(どうせならもっと別の場所に送ってくれれば良かったのに...)
愚痴を思ってしまうが終わってしまったことは仕方がない。
(このまま死んであの人に会ったらこれでもかと文句を言ってやりたいです...)
そう思った時、突然の浮上感に襲われる。
冷めた身体に入ってくる温かさ。優しい抱擁感。
暗い意識が段々と明るい方へと吸い寄せられていく。
「......ん...ん?ここは?」
目を開けると白い天井があった。
「私はあの時ゴーレムと戦って...一応勝ったけどその後気を失ったんじゃ.........っ!」
起き上がろうとすると横腹に激痛が走る。そういえばゴーレムの攻撃で大傷を負っていたのを忘れていた…
「...あら、駄目よまだ動いちゃ。
回復薬と私の魔法で傷口は塞いだけどあと一週間は安静にしないと。」
声のする方を見ると長髪の綺麗な女の人が座っていた。
「あの...ここは?」
「ここは森の中の私の家よ。貴方が森の中で倒れてたのを見つけて運んできたんだけどね。
......おっと自己紹介がまだだったわね...
私は魔族のレイ。まぁ色々あってこんな奥地に住んでるけど...」
知らない人だが、気さくで看病もしてくれたことから見るとこの人は良い人そうだ。
「私は柊 香苗っていいます。あの、倒れてたのを助けてくれてありがとうございました!本当に死にそうだったので...」
「お礼なんていいよ。私が勝手にやったことだし。さっきも言ったけど一週間は静かにしてなさいね。
......そういえば何であんなところに倒れてたの?」
転生したことはあまり伝わらないかもしれないが、これまでの経緯を話す。
「転生者...か...話では聞いたことあるけど実際見たことなかったからね...
じゃあこの世界のこととかよく知らないんじゃない?」
確かにこの世界に来てから少し経ったとはいえ、まだ井の中の蛙だ。
なので素直に頷いた。
「じゃあ説明するね!」
ドヤ顔で語るレイさんの説明をまとめるとこうだ。
この世界、ヴァミルは複数の大陸で構成されている。
人族、亜人族、魔族、妖精族の四種族が存在し、私が迷宮で会ったような魔物は各大陸に大勢いる。
人族は数が多く、中々の領土を持っており、生産性が高い。つまり発展しているとのこと。
亜人族は人族に比べ数は少ないが個体の力が強い。人族とは仲が悪いわけではないが友好的というわけでもなく、至って普通だ。
魔族は亜人族同様、数より力である。この力は何方かと言えば魔法寄りらしい。
人族とは犬猿の仲で、今まさに戦時中という緊迫した状態だ。
亜人族とはあまり関わりを持っていない。
妖精族はどの種族とも関わりを持っていない。一説では奥地に住んでいるそうだが、もちろん関係を絶っているため、状況を知る人は少ない。
一年は360日プラス神誕祭の5日間で合計365日だそう。
貨幣は金貨、銀貨、銅貨、鉄貨の四種類が存在し、
金貨=一万円
銀貨=千円
銅貨=百円
鉄貨=十円
のはずだ。
「まぁ大雑把に言えばこんな感じかな?」
「あの...この森って何なんでしょう?
さっきから人気が全く感じられないんですけど...」
「この森は未開地よ。私以外誰も住んでないわ」
「えっ?じゃあ何で...」
するとレイさんは複雑そうな顔をして話し続ける。
「私は...元々魔族の先鋭部隊の一人だったの。先代魔王の頃から仕えていたんだけど、新しい魔王に変わって新魔王のやり方に私と他の数人が反対してね...
国から追放されて追いかけ回された結果が未開地だったわけ」
「その魔王って...」
「先代魔王の息子よ。力で何でも通ると思ってる。それで結局人族と喧嘩になったんだけどね...
馬鹿だけど力も野望も持ってるから厄介よね...」
深々と溜息をつくレイさんを見て、ある考えが頭をよぎった。
「レイさん。私に特訓してもらえませんか?」
突然お願いをされたのでレイさんは目を丸くする。
「いいけど...何で?」
「私、ここで生きていくために強くなるって決めたんです。無一文ですし...
もうあんなことにはならないようになりたいんです!」
死にかけた時、如何に自分が甘かったかようやく気づけた。
これから先、これ以上の危険に遭遇した時、一人で対処できるだろうか?
自信がないからこそ、鍛えなければならない。
「.........そう。わかった!じゃあ一週間後から特訓よ!」
「はい!よろしくお願いしますレイさん!」
これが後の世界にとっての最重要人物の誕生だった。