第1話 始まり
薄暗い明かり、ひやっとする風。
周りを見渡すと岩の壁に岩の床。
見慣れない風景が私の視界に映っていた。
私は冒険趣味じゃないし、何方かと言えば引きこもり気味の現役高校生である。だから...これは、これだけは言わせてもらいたい。
「ここはどこですか...」
私は柊 香苗、田舎暮らしの現役高校生である。
昔は繁盛していたという商店街の一角にほっそりと佇む人形屋の後継ぎとして働いていた。
かれこれ100年以上歴史があるこの人形屋は昔こそ人気があったが今となっては1日に客が来るか来ないか、といったところだ。
一応、幼い頃から裁縫の訓練はしていたので、数分で人形の一体二体は作れる。だが、最早その才能さえも必要なくなった。
ーーーもう閉店することは既に決まっているからだ。
売れない店は閉める。それは世の中の道理。何時までも経費だけを取られてはいけないのだ。
「もうこの店ともお別れですか...」
木製の壁を触りながら息を吐く。
「せめて、せめて今日の夜までは開けておきましょう...」
カチコチと時を刻むアンティーク時計の音に包まれながら、おもむろに一つの猫の人形を手に取る。
「今まで、ありがとうございました。」
儚げに微笑んで目を閉じる。人形を抱えながら閉店時間を待つ。
誰も来ないだろうと諦めていたその時、
カランコロン
「...!いらっしゃいませ!」
入ってきたのは綺麗な長身の女性だった。
なぜこんな時間にこの店へ入ってきたのかは知らないが、素直にお客が来てくれたのが嬉しかった。
「へぇ...結構な種類の人形が置いてあるのね...」
すると一つの悪魔のような形をした大きめの人形を手に取った。
「これを頂戴。」
ニコッと微笑みかけながら差し出す。
「! 800円になります。」
紙袋に詰め、ちょうど代金を受け取り、紙袋を手渡す。
「あの、ありがとうございました!」
「いいのよ。私が欲しかっただけだから。」
その女性はニコニコとしながら私の目を見て言った。
「貴方、人形が好きなの?」
「はい。ですから店を閉めるのは少し寂しいですね...」
「貴方みたいな小さな子が一人で経営してるなんて本当に凄いと思うわ。」
小さな子って...よく小学生と間違われる身長だがこれでも一応高校生だ。
でも買ってくれたことに感動してつい言ってしまう。
「じゃあ閉店大サービスで叶えられることならお願いしていいですよ!」
「そう?じゃあ...」
「私の世界に興味ない?」
「は?え?はい?はい...」
よくわからなかったので思わず頷いてしまう。
「いいの⁉︎ありがとう!最近物騒なのよね...私からのお願いは...私の世界を平和にする鍵になってほしい!」
すると部屋中に目を開けていられない程眩い光が出てくる。
「へ⁉︎ななななんですかこれぇ‼︎」
「大丈夫よ。能力は贔屓目につけておくから。」
「全然大丈夫じゃないですぅ‼︎」
...そして冒頭に戻る。
さっきまで店にいたはずが、いつの間にか薄暗い洞窟の中に来ていた。
よく見ると下に手紙が落ちている。
開いて見ると
『この手紙を見てるということは無事に辿り着けた様ですね。貴方が今いるのは剣と魔法の世界のヴァミルです。ステータスと念じれば開くので確認して見て下さい。
では良き人生を。
世界神カリスより』
「...ステータス」
Level:1
名前:柊 香苗
性別:女
種族:人間
体力:3420/3420
魔力:27360/27360
攻撃:368
防御:423
魔法:人形魔法(創作、一体使役)
称号:転生者、神の加護持ち
「ほんと何なんですか...」