34 息抜き
マンション3F
正直な所…認識が甘かった、イレギュラーの脅威は認識していたつもりだったが、まだ足りなかった…銃という圧倒的な力を持ち安心感があったのだろう…その安心感も先程の2人組を見てしまい、文字通り吹き飛んだ…たしか昔の偉い人が《安心こそが人間の1番身近に居る敵である》と言ったらしいが、良く言ったものだ…
「身をもって体験してるよ、チクショウ…」
頭をバリバリ掻き毟りながら考える…菜摘には提案とは言ったがあまり考え無しに行動を起こすのは良くないと思う…そういう意味では提案では無く相談なのかも知れない…
(俺はあんまり頭良くねぇんだよな〜)
だが、思考停止はしない…頭が良くない事と何も考えない事は一緒では無いのだ、それ位はわかる。
頭が悪くても良い案が出る事は有るのだ…少なくとも自分は大学から家まで生きて帰って来られたのだ…
(まずは菜摘に今回俺が見た事を話そう…)
銃は持っていても弾が尽きれば唯の鉄屑なのだ…しかも俺たちのもっている銃なんてリボルバーだ、装填数は少ないし精度も低い、弾を打ち切って仕舞えばもう文鎮の代わりにしかならない…
(銃は確かに強力だが銃を頼り切ってしまってはいけないな…)
ガチャッ…キィィ…
俺が考えていると菜摘が来たのかドアが開いた音が聞こえた…
(さぁて…菜摘は俺の提案…と言うか相談にどう反応するかね…)
「黒鉄さん?なんでそんなに深刻そうな顔してるんですか?」
「…え…」
自分が深刻そうな顔をしてるなんて思って無かったからか少し声が漏れた。
「…ふーっ、菜摘さっき見た事を話す…正直ヤバイ感じがするんだ…まずは………」
あれから起きた事を菜摘に話した…菜摘は直接見ては居なかったがイレギュラーがゾンビを統率して2人組の人間を殺した事に驚き、恐れていた…
「…これが俺が見た事、全部だ…2人組で銃を持ってた…今の俺達と大差のない…いや、銃の扱いが上手かった気がするからあっちの方が上なんだけど…その2人組がやられたんだ…今この状態で『口裂け』に会ったら…」
殺られる…最後までは口にしなかったが菜摘には伝わっていた…まだ朝だというのに少し部屋が暗くなった気がした…
「…っと、いけないな…」
「…何がいけないんですか?」
「いや、最近…って言うかゾンビが出てきてから暗くなってばっかりだからさ…少し明るい話しでもしようかと…」
「明るい話しですか?」
「そうそう!どうせ今日は近くに『口裂け』が居るしゾンビの大軍までいるから外に出るのは危ないし…今後の方針決めるのと同時に次欲しい物とか漁りたい場所とか聞きたいな〜と思って。」
出来るだけ明るく話す、年上の意地だろうか?それとも男の見栄か、やっぱりその両方だろうか…内心恐くて堪らない自分を偽り強い自分を精一杯作る…菜摘のみたいな女子高生達にはそんな男心、見え見えなのかもしれないが…
「…私、欲しい物がちょうどあったんです!」
「マジか!ちなみに何が欲しいんだ?」
「まずはですね〜バイクですね!」
「バイク⁈何故に?」
(菜摘がバイクとは…意外だった…てっきり服とか香水とかの方かと思っていた…)
予想が全く外れ驚きながら聞き返す
「黒鉄さんに乗せて貰った時に、便利だなって思いまして…あと、これからの事を考えると必要になると思いますし、後…運転してみたいです。」
最後の方、菜摘は少し声が小さくなった…後で聞いた話しだが、菜摘は運転に憧れていたらしい。
「バイクか…近くにバイクショップあったから今度見に行くか!」
「はい!」
「…わかってはいるんだが…菜摘、免許は?」
「持ってませんのでお願いします!」
「…オーケー取り敢えず今日はバイクの説明とかしよっか…」
「はい!」
数時間後…
どうやらバイクの話に夢中になり過ぎていた様だ…
「…あれ?もう昼過ぎか…何か作るか…」
「私もお手伝いします…」
「ありがとう…じゃあ生物から食うか…
腐ったら勿体無いしな…」
(電気もいつ止まるかわからんし…トマトとかやばそうだな…)
今はまだ電気が来ているから冷蔵庫も使えているが電気が切れてしまった時の事も考えなければならない…
(出来れば自家発電している家に拠点を移したいな…欲を言えば井戸とか、水をろ過出来る場所…湧き水とかあればいいな…)
包丁が規則正しくまな板を叩く音が台所に響く、
「黒鉄さん…意外です…」
「何が?」
「出来たんですね…料理…てっきり出来ないかと…」
「…失敬な…栄養には気を付けている方なんだぞ?」
こう見えても自炊はしているのだ、これぐらいできる
、ついでに菜摘を少し驚かせてやろうと思ったので、いつもより気合いを入れて料理をした…
…久しぶりに楽しい昼を過ごした気がする…料理はどれも美味しかった…ゾンビが現れてから気を張り詰め続けていた俺達だが良いガス抜きになったと思いながら菜摘と談笑を交わした。




