31 安否
マンション3F
ゾンビが出て来た日からもう5日、今日も大事をとって外の探索はしない事にした…なるべく万全の体制で外に出たい、イレギュラー相手にこの状況では勝てるものも勝てない、そう、油断こそが一番の敵であると俺は思っている、なので今日は明日からの準備に当てる事にした。
準備と言っても荷物の整理や必要品のチェック、必要優先度の高い物資のリストアップぐらいだった。
ちなみに菜摘が全て終わらせた…いや、終わらせてた。
俺はバールの柄にテーピングを巻き、手への衝撃を少なくする為の持ち手を付けた。
しかしそんな準備も午後には終わり俺は菜摘に向け口を開いた。
「今更だが…菜摘のご家族は…今どこに居るんだ?」
本当に今更だな…そう想いながら菜摘に聞いてみた。
「本当に今更ですね…私の両親は海外に居ますので…」
安否も分からない状況だと菜摘は言った、菜摘は俺と比べて、とても賢い…日本でこの状況なのだから海外では更にゾンビ化の規模が大きく生存率は低い事を分かっているだろう、俺でさえわかる事を彼女が考えていない訳が無い…
(少し…いや、かなり無神経だったな…俺)
ゾンビが出てきた日に比べて心に余裕が出て来たのか…油断して無神経な発言をした事を俺は少し反省した…
「黒鉄さんのご家族はどうなんですか?」
俺が反省して居ると菜摘が話題をそのままに聞いて来た…その時の彼女は本当に心配そうに聞いて来ていた…
「俺の家族は…兄が1人居るだけなんだ…父親も母親も事故で死んでるんだ…」
そう、兄が1人居る…こんな世界になってしまって安否も分からない状況だが…
「お兄さんですか…心配ですね…連絡とかはしましたか?」
「いや、連絡とかはして無いな…」
「連絡付かないんじゃあ尚更心配ですね…」
「いやいや、連絡付かないんじゃなくてして無いだけだよ?」
俺の発言を聞いて菜摘は少しキョトンとした顔をしてから…
「なんで連絡し無いんですか?仲悪いんですか?」
「いや?仲は良いよ…多分…」
「じゃあなんで…ですか?」
菜摘は自分の声量に気づいたのか気まずそうに訪ねてきた。
「無駄だから…かな?」
「無駄ですか?」
菜摘は本当に不思議そうに聞いていた…多分こんな非常時に何を言ってるんだこの人位は思っていそうだ…ヤバイ誤解を解こう
「無駄っていうのは…あー説明し難いな…多分いや、絶対に兄貴は生きてるから心配しても無駄ってことが言いたかったわけで…何というか…うん、とにかく絶対生きてる、だから心配してない。」
「信用してるんですね…」
菜摘は俺の言葉を聞いてクスリと笑いながら髪をいじった。
「ま、まぁ…信用してるかな?」
「なんで疑問形なんですか?」
最初、少し空気を悪くしてしまったが話が終わる頃に俺と菜摘はお互いに笑っていた。
同刻 某所
「ふー」
男は何かをやりきった様にため息を吐く。
「リーダー!よかった御無事だったんですね…って…うわっ!」
リーダーと呼ばれた男は自分を呼んだ男をチラリと見て直ぐに元々見ていた場所を見る。
「スゲェなーリーダーは!一体何体のゾンビやったんですか?」
「……………」
リーダーは言葉を発せずに足下に転がるゾンビを見る。
その男の足下には頭を潰されもう動かない死体が幾つも転がっていた…
「………一刀」
「なんすか?リーダー?」
リーダーの呟きは本当に小さく聞き取れなかった。
「なんでもない…さて、そろそろ戻るとするか…」
「了解っす、リーダー!」
男達は歩き出した…何処かに向かって…




