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カフェにて
『少し太った?』
カフェのざわめきの中に溶け込みそうな、私の声に、貴方は静かに微笑んだ。
『お陰様で』
その言葉で、貴方が再び幸せを掴んだ事を知る。
テーブルに引かれた不可侵の線を、私は越える事は出来ない。
貴方の相談を聞くうちに芽を出した感情は、花を咲かせる事なく枯れてゆく。
歳の差は関係ない。
初めはそう思っていた。
だけど、貴方は私よりずっと長く生きていて、私と出会う前に、貴方にとって大切な人に出会ってしまった。
不可抗力の運命に、私は心の中で悔し涙を流す。
何もしらない貴方は、無垢な瞳を細め微笑う。
私は、貴方の目を見て微笑む事が出来ない。
…出来なくなってしまった。
俯くと、琥珀色のホットティーに私の笑顔の……涙顔が映った。
――次に生まれたら、出会いましょう
心で呟いたあと、カップを揺らし、私の顔を濁した。