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台所にて
段落のようにぽっかりと空いた空間に、私は崩れるように座り込んだ。
虚ろな目は、さっきまで彼に向けていたものとはかけ離れ、威勢の欠片もなかった。
冷蔵庫から、ビールを取り出し、扉も閉めぬまま、乾いた音を響かせる。
彼の残していった、吸ったこともない煙草に火をつける。
咽せる。
涙ぐむ。
そして笑う。
情けなく、みっともない自分に。
でも、漂う煙は、彼の匂いを私に届けた。
私は、あなたの匂いを追って、目を泳がせる。
雲のように掴み所のない彼に、想いを募らせる。
冷たい風が、彼の匂いを揺らす。
風の先に立つ影に手を伸ばす。
『ごめん……』
私は、彼に抱きつき、愛しい匂いに体を擦り寄せた。
段落は……新しい章を綴り始める。