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見知らぬ街の夢見荘
夢の在る場所と信じて、大きな荷物とほんの少しの希望を抱え、踏み出した先にあった私だけの六畳一間。
都会の中に何本も敷かれたレールは、人生のように無数の分岐を繰り返し、その上を走る電車達は乗客の疲れを乗せ、一つと同じものの無い幸せのあるべき場所へと駈けて行く。
街の喧騒は私の中に溶け込めず、心に描いた空とは違う掠れた夕焼け空が寂しさを漂わせるけれど、故郷で見た時より、ずっと近い場所にあった。
部屋の窓にもたれかかり、焦点の合わない瞳に景色を写し、胸のざわめきや苦しさを時間をかけて中和させる。
白く染まった心には幾つもの優しい人影が降りて来て、『元気を出しなさい』とか、『いつでも帰っておいで』と声をかけてくれた。
やがて、私は独りではないんだと気付く。
窓の外で、昔から変わらぬ月がいつまでも優しく微笑んでいた。