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第七話 老婆の肖像その十二

「はっきりとわからないけれど」

「けれど入塾のテストはだよね」

「そう。あの人のことは猛も聞いてるわよね」

「有名だからね」

 実際に塾でもだ。十字のことはかなり有名になっていた。それで猛も答えることができた。

「本当にさ。有り得ない位の成績で国公立のクラスに入って」

「それでだからね」

「そんな人でも呼ばれるとは限らないんだ」

「どういう基準で呼ばれてるのかしら」

「成績じゃないのかな」

 猛は首を捻りながら雅に話した。

「呼ばれる基準って」

「じゃあ何かってなるけれど」

「ちょっとわからないよね」

「ええ。私も何で呼ばれたかわからないし」

「けれどさ」

 だがそれでもだとだ。猛は言った。

「十階に呼ばれるのならね」

「それなら?」

「そう。ちょっとどういう場所か見てきてよ」

 そうして欲しいとだ。猛は興味深げに雅に頼んだ。

「そうしてくれるかな」

「十階ね。誰も知らない場所だから」

「皆言ってるじゃない。十階はどういった場所か」

「そうよね。私も実は」

「雅もどんな場所か興味があったよね」

「実を言うとね」

 その通りだとだ。雅も猛に話す。

「人ってやっぱり自分が行けない場所にどうしても興味を持つから」

「好奇心だよね」

「そう。好奇心からね」

 それ故にだとだ。雅も少し期待する表情で猛に話した。

「どういった場所か気になるから」

「じゃあどういった場所か教えてね」

「ええ、じゃあ期待してて」

「そうするよ。けれど十階に呼ばれる人って」

「その人って?」

「結構塾にいるみたいだけれど」

 それでもだというのだ。雅はだ。

「誰も言わないわよね」

「だよね。何でかな」

「それもわからないけれど」

 首を傾げさせながら話す二人だった。そしてだ。

 猛の家の道場に入りだ。そこで修業をする。その二人についてだ。

 雪子が立派な、十字が入ったあの理事長の部屋でだ。その重厚は席に座り八の字髭の男に話していた。

 雅は理事長室のソファーに足を組んで座っている。服は自分の着ている制服だ。その服でだ。

 ワインをボトルでラッパ飲みしつつだ。こうその男に話していた。 

 見ればその男は服は見事なスーツだ。どうやら外国のブランドものだ。シャツもネクタイもそれでまとめている。髪も丁寧に整えている。しかしだ。

 その顔立ちも雰囲気もだ。実に卑しい。まるで夜盗だ。

 目つきもまるで盗人だ。少なくともまともな人間ではない。その彼に対してだ。

 雪子はワインを飲みつつだ。こう話すのだった。

「で、あの娘だけれどね」

「武道をやっているのだな」

 男は好色そうな声で雪子に応えた。

「そうだったな」

「そうよ。空手の全国大会で優勝したのよ」

「強いんだな」

「かなりね。それは折り紙付きよ」

「しかも許婚だったか?」

「今で言うと婚約者ね」

「そうした相手もいるのか」

 男はだ。雪子と話しながらさらにだった。

 余計に好色な感じになってだ。そして言ったのである。

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