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第七話 老婆の肖像その八

「慎重に。調べていって」

「そしてそれが終わった時には」

「救うよ」 

 こうは言っても。やはり感情はない。

「神がそうされるのだから」

「そしてその後で」

「善き心が救われた後で悪しき心が裁かれる」

 そうなるというのだ。

「そうなるよ」

「では今は」

「この映像とやり取りは保存しておくよ」

「そして然るべき時にですね」

「裁きが下るよ。ただ」

「ただとは?」

「薬物のルートだね」

 十字が気にしているのはこれもだった。ルートがなければ薬物は手に入らない。そしてそれは表のものでは決してない。それは彼もよくわかっていた。

 だからこそだ。彼は言うのだった。

「それも調べよう」

「では今度は」

「裏社会にあたろうか」

「それならお任せ下さい」

 神父は即座にだ。後ろから十字に述べてきた。

「この神戸のことならです。隅から隅まで知っています」

「そして裏のこともだね」

「この国では宗教は裏社会とも関係があったのですから」

「寺社だったかな」

「はい。ご開帳という言葉がありますが」

 神父は江戸時代に生まれたその言葉を十字に説明してきた。

「それは所謂風俗や賭場の話でしたが」

「神社や寺の中で賭博をしていたんだったね」

「江戸時代ではそうでした」

 京都では公家屋敷も使われていた。そこから俗に言うショバ代を手に入れていたのだ。これが寺社や公卿の重要な収入源となっていたのだ。

 そしてこのことからだ。神父は話すのだった。

「ですからこの国の宗教界はそうした世界との関わりが深いのです」

「そういえばテキ屋だったかな」

「はい」

「祭りの時に寺社の前によく出るね」

「あれもまたです」

「この国のそうした社会だったね」

「はい、賭場にそのテキ屋がです」

「この国の闇社会の元だった」

 つまりヤクザだったというのだ。

「そうだったね」

「左様です」

「所謂マフィアだけれど」

 十字はイタリアの感覚で述べた。

「けれどマフィアとは成立の過程が違うんだね」

「犯罪組織もその国それぞれです」

「そういうことだね」

 マフィアはフランスへのレジスタンスがはじまりではない。

 そのはじまりはシチリアの山賊である。彼等を当時シチリアを治めていたナポリ王国が警官に仕立て他の賊達にあたらせたのがはじまりだ。毒には毒をという考えだったのだ。

 プッチーニのオペラでトスカという作品があるがこの作品に出て来るスカルピアという悪辣な警視総監はマフィアであるがこの男がそのままである。マフィアはイタリア南部を牛耳ってさえしまっている。

 そのマフィアと日本のヤクザの違いについてだ。十字は今知ったのである。

「成程ね」

「おわかりになられましたか」

「少しね。犯罪組織は何処にでもあるけれど」

「我が国。私の生まれたこの国ではです」

「賭博と出店からだったんだね」

「宗教と関わりのある」

「しかしそれが今では」

 どうなったのかは。十字はすぐに察することができた。

「マフィアになったんだね」

「その通りです」

「そうだね。あらゆる犯罪に手を染めている」

「イタリアと同じです」

「マフィア、そしてカモラと」

 マフィアはシチリア系でありカモラはナポリ系だ。どちらもイタリア南部を経済やそうした面から牛耳ってしまっている。イタリアの社会問題になっている。

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