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第七話 老婆の肖像その三

「望は気にしないで」

「だといいけれどな。それにしても」

「それにしてもって?」

「御前最近体調悪いか?」

 その春香の顔を見てだ。望は心配する声で言った。

「目とかな。何かくまができてるぜ」

「そうかしら」

「終電で帰ってもまだやることあるだろ。何かと」

「ま、まあそれはね」

「そんなことするなよ。居残りでもな」

 それでもだとだ。望は春香を心配しながら言う。

「無理をすれば後で来るからな」

「今みたいにっていうのね」

「そうだよ。徹夜とかなら絶対にするなよ」

 望はそれは止めた。

「いいな」

「ええ。徹夜はね」

「わかってるな。そうしろよ」

「有り難う。ただ」

「ただ。何だよ」

「本当に何でもないから」

 望から視線を逸らしながら言う春香だった。

「何でもね。望は気にしないで」

「いや、身体に悪いのならな」

「止めておけっていうのね」

「そうだよ。それはいいよな」

 望はとにかくだ。春香を気遣って言う。

「絶対にな。そんなことするなよ」

「ええ。有り難う」

「で、今日だけれどな」

「今日って?」

「塾休みだろ?どうするんだよ」

「部活でね。先生とね」

 今度は俯いて言うのだった。望の顔は見ていない。

「お料理のことで」

「色々と話すのかよ」

「今凄く注目してる料理があるの」

「お菓子?それともパスタかよ」

「中華料理よ」

 それだと答える。しかしその声は虚ろなものだった。

「それよ」

「中華料理ねえ。酢豚とかか?」

「酢豚なら駄目?」

「あれはトマトとかは入ってないからな」

 それでだとだ。望は笑って春香に述べる。

「だからな」

「いいっていうのね」

「ああ、豚肉だって好きだしな」

「それに人参や玉葱とかはね」

「俺好きだぜ」

 そうした野菜はいけるとだ。望は高校生らしい明るい顔で春香に話す。

「ああした野菜はね」

「ピーマンも好きだったわよね」

「大好きだぜ」

 それもいけるというのだ。

「というかトマト以外の野菜はな」

「好きだったわよね」

「好きだぜ。じゃあその酢豚楽しみにしてるからな」

「期待してて。ただね」

「ただ。何だよ」

 少し怪訝な顔になってだ。望は春香に述べた。

「何かあるのかよ」

「うん。トマトもね」

「おい、トマトも食えってのかよ」

「トマト。身体にいいから」

 望から視線を逸らしたままでだ。春香は言うのだった。

「だから食べてね」

「何度も言うけど俺はトマト嫌いなんだよ」

「それでもよ。身体にいいから」

「それでだっていうんだな」

「そう。食べてね」

「全くよ。何でそんなにトマトにこだわるんだよ」

 春香のことに何も気付かないままだ。望は困った顔でぼやいていく。

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