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第七話 老婆の肖像その一

                   第七話  老婆の肖像

 十字はまた絵を描いていた。今度はだ。

 画廊で描いていた。今は休日だ。

 その休日に絵を描いていた。その十字にだ。神父が尋ねてきた。

「今度の絵は」

「ジョルジョーネだよ」

「そうですね。老婆ですか」

「そう。老婆の肖像画だよ」

 見れば非常に疲れ果てくたびれた、人生の疲れが見える顔だった。服だけでなく身なりもだ。

 その服も見てだ。神父は言うのだった。

「前から思っていましたが」

「この絵のことだね」

「はい。この絵もまた人生を描いていますね」

「そして人間をね」

「そう。この国のね」

 日本のことだった。十字は長い間イタリアから見て話したのである。

「日本、この国のかつての統治者で徳川家康がいたね」

「徳川幕府を開いたあの人物ですか」

「そう。あの男の」

「あの男の言葉ですか」

「人生は重荷を持って坂道を登るが如しだったね」

「そう。あの言葉だけれどね」

 その言葉をだ。十字は今神父に述べたのである。

「この老婆もね」

「人生を送ってきて、ですか」

「疲れきっているんだよ」

「そうですね。おそらくかなり辛い人生を歩んできたのでしょう」

「生きていれば辛いことは多くあるよ」

「数多くですね」

「そう。そしてそれはね」

 どうかというのだ。老婆と人間の人生を見ながらの言葉だった。

「誰でもそうだよ」

「人間なら誰でもですね」

「そう。人間ならね」

 この老婆に限ったことではないのだ。それはだ。

「そうだから」

「では誰でも歳を取れば」

「その辛さが顔や他の。外にも出て来るよ」

「そういえば人相ですね」

「そう。人間は四十になればね」

 どうなるかというのだ。四十になればだ。

「人生が顔に出るね」

「リンカーンの言葉ですね」

「そう。二十までは生まれた時の顔だけれど」

「四十には己の人生が顔に出ますね」

「そう。そしてこの老婆の歳になれば」

 どうかというのだ。その歳になればだ。

「完全に出るよ」

「ここまで、ですか」

「そう。この肖像画は人生を描いているんだ」

 それそのものだというのだ。そのことを述べてだ。

 十字はここでだ。こんなことも言ったのだった。

「ただ。それはこの老婆だけじゃないよ」

「といいますと」

「誰もがだよ。そしてこの歳にならなくてもね」

「人生は出ますか」

「そう。若くてもね」

「この老婆の歳にならなくとも」

「人生は。生きていて味わったものは出て来るよ」

 十字はその疲れきってだ。くたびれきった顔の老婆の絵を描きながら話していく。

「はっきりとしたものではなくともね」

「微かにでもですか」

「だから。学園のならず者でもその顔は歪むんだよ」

 十字はあの四人組を思い出しながら述べた。

「そして悩みや苦しみも」

「そういったものも」

「顔に出なくとも。目にも出るし」

 目、十字はそれも見ていた。

「そして気にもね」

「オーラですね」

「そう、それが一番わかるかな」

「人には誰もがオーラがあるからですね」

「それを見られたならば」

 それならばだというのだ。これは十字がこれまでの経験で見てきたものだ。そしてだ。

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