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第一話 キュクロプスその三

「この王妃は当時愛人がいたんだ」

「そうだったんだ」

「そして手を握っている子供達が」

「その愛人との子供なんだ」

「それが描かれている絵なんだ」

 ゴヤはだ。それを描いたというのだ。

「王室の絵にね」

「王妃の不義まで描いたんだね」

「そしてね」

 今度は王妃の顔を観て言う十字だった。

「この王妃の顔だけれどどう思うかな」

「確かに奇麗じゃないね」

 少年もだ。このことは認めた。

「どうもね」

「実際に美人ではなかったらしいけれど」

「その心も描いているんだ」

「そう、そういう絵なんだ」

「成程ね。だから余計に醜く感じるんだね」

「人の心には間違いなく醜いものがあるよ」

 言い難いことの筈だった。しかしだ。

 十字はこのことを淡々と述べていく。そうして少年に話していくのだった。

「それは絵にも出るからこそ」

「この画廊を開いてるのかな」

「そうなるよ」

「ううん、醜いものをね」

「勿論醜いものだけじゃないよ」

 すぐにだ。十字は少年にこうも言った。

「奇麗なものもあるからね」

「そうした絵はあるのかな」

 少年が少し怪訝な顔になって問うとた。従事はこうも答えた。

「あるよ」

「あっ、あるんだ」

「人は確かに醜いけれど」

 これは否定しなかった。何があろうとも。

 だがそれと共にだ。彼は言うのだった。またしても。

「それと共に奇麗なものも持っているからね」

「だからそれもなんだ」

「ほら、この絵を観て」

 十字が今度紹介した絵はラファエロだった。彼の代表作であるアテネの大聖堂だ。

 その中央にプラトンとアリストテレスがいる。プラトンの顔はレオナルド=ダ=ビンチになっている。その顔は彼自身が描いた自画像そのままである。

 ダ=ビンチの右手は上を指し示しておりアリストテレスの手は水平になっている。その絵を指し示してだ。十字は少年に対してこう言ったのである。

「この絵も知ってるよね」

「うん、ルネサンスの頃の絵だよね」

「そう、ラファエロのね」

 まさにそれだとだ。十字も話す。

「それだよ」

「この絵は確かに奇麗だけれど」

「中央の二人の手は何を示してるかは」

「習ったよ」

 少年はすぐに十字に答えた。

「議論をしているんだよね」

「そう、それぞれの理想とする考えをね」

「知的な議論をしていると聞いたけれど」

「その通りだよ。理想を語り合い自分達を高め合う」

 十字はこう言っていく。

「それは奇麗なものだよ」

「純粋に高みを目指すことはだね」

「そう、人にはそういう一面もあるから」

「奇麗な一面も」

「その通りだよ。人は醜いだけじゃないんだ」

 淡々とだが確かな声で語る十字だった。

「こうした一面もあるから」

「つまり人のあらゆる面を描いているんだね」

「模写ばかりだけれどね」

「模写でも凄いよ」

 少年はキュクロプスやアテネの大聖堂の他の絵も観た。

 そしてだ。こう言ったのである。

「これだけの絵を完璧に忠実に描けるなんて」

「だから凄いんだね」

「うん、凄いよ」

 本当にそうだと答える少年だった。その声はうわずっている。

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