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第六話 エトワール、または舞台の踊り子その六

 二人でその夕食を食べる。その席においてだ。

 十字は主の血、そのワインを飲みつつだ。神父にこのことを述べた。

「僕はいつも主の血を飲ませて頂くけれど」

「どう思われますか、主の血については」

「素晴らしいよ。まさにね」

「主の血ですね」

「神が。そして主が」

 そういった存在がだというのだ。

「人に与えられたものだよ」

「それだけにですね」

「感謝しつつ飲まないとね」

「パンもですね」

「そう。主の身体もね」

 ひいてはだ。それもだというのだ。

「頂くことはこのうえない喜びだよ」

「枢機卿は常に感謝されているのですね」

「そうだよ。全てはマナと同じものだから」

 モーゼがエジプトから逃れる時に神が人々に空から与えたものだ。尚これが実は一体何だったのかは諸説ある。ある昆虫が出す蜜の様なものではなかったかとも言われている。

 そのマナとパン、ワインは同じだとだ。十字は言うのだった。

「だからこそね」

「常に感謝して頂かれるのですね」

「そうしているんだよ。常にね」

「ではそのうえで」

「うん、召し上がろう」

 言いながらだ。十字は今度はパンを口にした。白く丸いパンをだ。

 そしてだ。彼は今度はこう言った。

「僕は今主の身体を食べた」

「その美味をですね」

「うん、頂いたよ」

 そうしたとだ。表情ないまま答えたのである。

「これをね」

「そしてそれもですね」

「うん、美味しいよ」

 そうだとだ。パンについても答えた。

「では今日も神に感謝して」

「そのうえで、ですね」

「食事を頂こう」

「それでは」

 こう話してだ。彼等は食事に感謝するのだった。その頃だ。

 雪子はベッドの中でだ。傍らにいる一郎に言った。二人共一糸も身にまとっていない。

 その中でだ。酒、ブランデーを飲みながら言うのだった。

「何か今日はね」

「ブランデーがかい?」

「ええ、まずいわ」

 こうだ。ガラスのコップの中のストレートのそれを口にしつつだ。こう言ったのである。

「どういう訳かね」

「まずければ捨てればいいじゃないか」

 実に素っ気無くだ。兄は己の傍らで半身を起こして飲んでいる妹に言った。妹のその白く豊かな胸をだ。奥底に淫猥なものがある瞳で見ていた。

「そして他のをね」

「そうしようかしら」

「それにしても今日はまずく感じるんだ」

「どういう訳かね。いえ」

「いえ?」

「機嫌が悪いせいかしらね」

 そのせいではないかとだ。雪子は言うのだった。

「全く。何ていうかね」

「一体どうしたんだい?本当に」

「あの四人」

 憎しみの顔でだ。雪子は言う。

「本当にいらいらするわ」

「ああ、学校の」

「そう、それに塾のね」

 学校だけでなくだ。塾にも関係があるというのだ。

「幼馴染みとかね。たどたどしい純愛とかね」

「そういったものはだね」

「吐き気を催すわよ」

 どす黒いものをその白いものに帯びさせての言葉だった。

「だからこそ。何があっても」

「無茶苦茶にしてやるんだね」

「絆ってのは脆いものよ」

 そのどす黒い顔でさらに言っていくのだった。

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