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第六話 エトワール、または舞台の踊り子その五

「けれどそれと共にね」

「善もですね」

「大きな善もまた少ないよ」

 大きな悪と対比する様にだ。それもだというのだ。

「しかしそれでもね」

「小さな善もですね」

「そう、非常に多いから」

「では善と悪は」

「拮抗しているよ」

 そうなっているというのだ。実際はだ。

「善と悪は共にね」

「そしてその中で、ですか」

「人は生きている。悪に満ちていても悪に支配されているものじゃない」

「そうですね。しかしそのお考えは」

「バチカンの考えとは少し違うかな」

 自分でもだ。ある程度自覚して述べる十字だった。

「そうしたね。善と悪が拮抗しているというのは」

「悪が勝っている、そしてそれに対して」

「微かな善がある。その思想がバチカンでしょう」

「そうした傾向があるかな。けれど僕はね」

 十字の考えは違う。そうだというのだ。

「そうじゃないと思うよ」

「左様ですか。それでは」

「そう。それでは」

 どうかと述べてだ。そのうえでだった。

「神に見せて頂くよ」

「その悪をですね」

「うん。しかし」

「しかし?」

「僕が今度見る悪は。これまで多く見てきたものにしても」

 その中においてもだとだ。様々なこれまで見てきた悪の中でもだとだ。

「醜悪な悪のうちの一つだろうね」

「そして卑しいですね」

「嫉妬や憎悪、そして浅はかな劣等感」

 そうしたものをだ。十字は自ら挙げていく。

「それは人を歪めるものだからね」

「だからこそですね」

「そうした悪はどれだけ見てもね」

 どうかというのだ。裁きを下す彼にしても。

「嫌悪を抱かずにはいられないよ」

「様々な悪の中でも」

「幾ら見ても慣れない。そして」

「そしてですね」

「許せないね」

 感情はここでも見えない。だがそれでも言った言葉だった。

「そうした意味で神には感謝しているよ」

「そうした悪に裁きを下す立場にあることを」

「裁きの下し方は僕に任されているからね」

 そのことも言った。そうしてなのだった。

 そうした話をしてだ。今はだ。

 その話を終えた。そしてここでだった。

 神父はだ。十字にあらためて言ってきた。その話はというと。

「では。今は」

「時間かな」

「はい、ご夕食ですが」

「今日は何かな」

「まずは主の血と肉です」

 ワインとパン、これは欠かせなかった。神の僕として。

「そしてそれと共にです」

「それとだね」

「はい、そして」

 それとだというのだ。

「ソーセージ、そしてジャガイモのサラダです」

「それだね」

「はい、デザートには無花果もあります」

「今日はまた豪華だね」

「そう思います。実は寄付を頂きまして」

「寄付?信者の方から」

「無花果にソーセージはそれでした」

 その二つは寄付によるものだというのだ。このことを話してからだ。

 神父はまた十字に言ったのだった。

「では今日はその御馳走をですね」

「頂こうか。それじゃあ」

「はい、それでは」

 こう話してだった。そうしてだった。

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