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第六話 エトワール、または舞台の踊り子その四

「大きい悪を為す者は人としての器も大きいんだ」

「はい、これまでもそうでしたね」

「そうした悪は神も苦しませることなく裁かれる」

「枢機卿もそうされますね」

「けれど小さな器の輩の悪はね」

「それはですね」

「醜く、卑く劣っているからこそ」

 それ故にだというのだ。小悪党の悪は。

「それへの裁きは苛烈なものになるよ」

「ゆっくりと時間をかけてですね」

「そう。僕は悪への裁きを実行する」

 それが彼の仕事であると。彫刻を思わせる整った顔で淡々と話す。

「そうするからこそ」

「それ故に」

「これから悪を調べるよ」

「そしてですね」

「悪により壊れるものは防ぐよ」

 彼の仕事がまた出た。ただ裁きを下すだけではないというのだ。

「そうするよ」

「いつも通りですね」

「正しきものは護らなければならない」

 微かにだ。十字の今の言葉には感情が見られた。

「だからこそね」

「枢機卿は悪を裁かれ善を護られる方だからこそ」

「動くよ。今度も」

「神はおられます」

 粛々とした声でだ。神父は十字に述べた。

「そして全てを御覧になられてるからこそ」

「僕はそれに従うよ」

「畏まりました。ではまずは」

「塾の十階に入るよ」

 そのだ。謎の場所にだというのだ。

「そうするよ。明日にでもね」

「御気をつけ下さい」

「いや、気をつける必要はないよ」

「それには及びませんか」

「小悪党がばれる筈がないと思っているもの程楽にわかるものはないからね」

 そのこともだ。わかっている目での言葉だった。

「小悪党は己を見ない」

「それは絶対にですね」

「己のことだけを考えるが己のことは見えない」

「そしてそのことからですね」

「悪事には愚かさが付き纏う」

 小悪党の悪事はだ。まさにそれだというのだ。

「僕は常にその愚かさを見つけ」

「そしてその愚かさをですね」

「衝いてそのうえで」

「裁きを下す」

「大きな悪には大きな悪の対し方があるけれど」

 それと同じくだというのだ。

「小さな悪には小さな悪への対し方があるよ」

「ですね。しかし世の中は」

「大きな悪は少ないけれどね」

 そちらは少ないというのだ。この世に悪が蔓延っているにしてもだ。

「小さな悪は非常に多いね」

「醜く卑しい悪がですね」

「そう。そうした悪の方が遥かに多いよ」

 淡々と。無表情で話していく十字だった。

「けれどそれと共に」

「善もまた然りですね」

「これはギリシア神話だけれど」

 神は違う。だがそれでもだというのだ。

「正義と邪悪の天秤があるね」

「黄道十二宮の一つ処女宮ですね」

「そう、それだよ」

 まさにその星座からだ。話す十字だった。

「その正義の女神アストレイアが持っている天秤だね」

「あの神話では女神は邪悪の多さに嘆いて人の世を後にしたね」

「ですがそれはですね」

「実は違うのですね」

「この世には確かに悪は多いよ」

 このことは否定しなかった。十字も。

 だがそれと共にだ。彼はこうも言うのだった。

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