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第六話 エトワール、または舞台の踊り子その三

「あの二人よ」

「じゃああの二人も?」

「そう。ただお兄ちゃんが興味が湧かなかったら」

「叔父様がだね」

「由人叔父さんが手をつけるかもね」

「僕はそうした相手は一人でいいんだ」

 一見して紳士的に見える。しかしそこにあるものは下劣極まる。

 そうした笑みでだ。一郎は妹に答えた。

「特にね」

「そうよね。お兄ちゃんそうしたことはね」

「一人を徹底的に弄ぶことがね」

「いいよね。けれどあたしはね」

「やれやれ。彼女をそうして」

「彼氏を頂くのよ」

 その邪悪な笑みがさらに歪む。それは他の誰にも見せないものだった。

 一郎やおそらく他の僅かな者達だけが知っている。しかし他の誰も知らないものだった。そう、今それを見ている十字以外は。

「そうして幼馴染なんてものはね」

「やれやれ。引き裂くんだね」

「そんな甘ったるいものはね」

 邪なだけではなかった。悪意や憎悪、嫉妬、そういった様々な負の感情がだ。

 今の雪子には露わになっていた。その笑みを浮かべたままだ。兄に言うのだった。

「ぐちゃぐちゃにしたくなるから」

「そしてそれと共に」

「愉しんでやるわよ」

 人の笑みではなかった。最早。

 悪魔、それも悪意そのものを愉しむ最も邪悪な類の悪魔の笑みでだ。言うのだった。

「引き裂いて弄んでね」

「そうしてだね」

「ええ、やってやるわよ」

 こうだ。兄に対して言うのだった。雪子はその言葉は兄にだけ出したものだと思っていた。だが。

 十字はその言葉は全て聞いていた。そしてだ。

 その言葉を携帯に取っておいた。そのうえでだ。

 教会に帰り神父に聞かせる。それから彼の意見を聞いたのである。

「どう思うかな」

「邪悪ですね」

「やっぱりそう思うね」

「はい、そしてです」

「鍵はあの塾にあるね」

 場所についてもだ。言う十字だった。

「絶対にね」

「そうですね。清原塾にあります」

「うん。それも」

「十階ですか」

「そこにあるね」

 十字が今関心を持っているだ。そこだというのだ。

「二人にとって叔父さんというとね」

「塾の理事長ですね」

「殆ど十階にいて姿を見せないね」

「そして十階もですね」

「誰も入られない。そう」

「理事長に呼ばれた人だけが」

「どういう場所に思うかな」

 具体的にどう思うかとだ。十字は神父に尋ねた。その十階について。

「僕はかなりとんでもない場所だと思うけれど」

「はい、私もです」

 神父もそうだとだ。すぐに答えるのだった。

「その場所であらゆる悪徳が行われているでしょう」

「あの理事長と兄妹を中心としてね」

「枢機卿と悶着あった不良達ですが」

「彼等はおそらく手先だね」

 あの四人についてもだ。十字は言及した。

「小悪党。けれど小悪党程ね」

「下劣で卑しいですね」

「悪は大きければ大きい程純粋なものになるんだ」

 悪を熟知している、まさにそうした言葉だった。

「そう。そして小さな悪はね」

「小さいからこそですね」

「悪はその人物の器に比例するから」

 だからだというのだ。十字の悪への見方が今語られていく。

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