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第六話 エトワール、または舞台の踊り子その二

「このこといつも言ってるじゃない」

「だからそれが嫌だってんだよ」

「身体にいいのに?」

「それでもトマトは嫌いなんだよ」

 あくまでこう言う望だった。

「子供の頃からだろ、それは」

「子供の頃から食わず嫌いじゃない」

「他の野菜は食うから別にいいじゃないか」

「よくないわよ。だって私」

「私?」

「トマト使うお料理得意だし」

 ここでだ。春香の声のトーンが急に弱まった。

 そして少し俯いてだ。そのうえで望に言葉を返した。

「望に。健康のままでいて欲しいから」

「だからだってのかよ」

「そうよ。だからいいわね」

「仕方ないな。けれどな」

「トマトはっていうのね」

「ああ、食わないよ」

 こう言ってだ。望はあくまでトマトには手をつけないのだった。二人はこんなやり取りをだ。この日も続けていた。

 そしてその二人を見てだ。周囲はくすくすと笑っていた。

「またやってるよ」

「本当に痴話喧嘩好きだよな」

「っていうか神埼気付かないのか?」

「みたいだけれどな」

「どんだけ鈍感なんだよ」

 こうした言葉も出て来ていた。

「本木はかなり積極的に言ってるのにな」

「けれどそれでもなんだな」

「江崎は気付かないんだな」

「あれだけ積極的にしてても」

「かえって気付かないんだな」

 こうした想像も出て来るのだった。

「いつも一緒にいたらな」

「みたいだな。かえってな」

「まあ自然とカップルになってるからいいかな」

「江崎と宮本みたいにな」

 この二人の名前も出してだ。彼等は二人に温かい視線を向けていた。しかしだ。

 一人だけ違った。雪子はだ。

 今は二人をクラスの端から一人で見ながらだ。憎悪と嫉妬の光をその目に浮かべていた。

 だがそのことは誰にも気付かない。一人だけを除いて。

 クラスの扉からだ。十字は通行人のふりをしてその様子を見ていた。そうしてだ。

 雪子を見てその後すぐに扉の前から消えてだ。そしてだった。

 雪子がクラスから出たのを見て影の様にだ。その後ろを追った。そのうえでだ。

 彼女が校舎の屋上に入ったのを見て。屋上の扉の物陰に隠れて屋上の様子を見た。するとだ。

 そこにいたのは雪子だけではなかった。彼女と兄である一郎もだ。二人は屋上で誰も聞いていないと思ってだ。そのうえで話をしていた。

「それじゃあ今晩もだね」

「ええ、お願いするわ」

「場所はいつもの場所だね」

「そうよ。十階よ」 

 そこでだとだ。雪子はどす黒い、他の誰もが見たことのない笑みで兄に返した。

 まさに悪魔の笑みだった。十字はその顔を確かに見た。

 そして雪子はその笑みでだ。兄にさらに言うのだった。

「好きなだけやっちゃっていいから」

「わかったよ。それじゃあね」

「それとね」

 雪子は頷く、表情だけは端整な兄に言っていく。

「もう一組塾に来たから」

「また幼馴染のかい?」

「そう、空手部のね」

 そこのだというのだ。

「知ってるかな。道場を継ぐ」

「確か江崎君とかいったかな」

「そう、それと宮本ね」

 その二人だとだ。雪子は一郎に邪な笑みのまま話す。雪子は今は屋上のネットを後ろにしてもたれている。青空を背にしているがその青さは今は黒に覆われている。

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