表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/266

第五話 愛の寓意その十

「だから反省もできるんだ」

「しかし周りを巻き込む堕落は」

「そうはいかない」

 そうした場合の堕落はだ。難しいというのだ。

「人に危害を及ぼす堕落ならばそれは周りも堕落させ」

「そして毒に浸けますね」

「毒、この世で最も忌むべき毒」

 ただの毒ではなかった。それは。

 人が決して浸かってはならない、そうした毒だというのだ。ではその毒が一体何なのか、十字はそのことも把握しておりこう神父に言ったのである。

「人の心を腐らせ壊してしまう毒」

「それがそうした輩の持つだからこそ」

「根源から消す必要があるよ」

「だからこそですね」

「そう、塾のあらゆることを調べるよ」

 経営状況、それもだというのだ。

「そしてそのうえでね」

「若し堕落、悪があったならば」

「その時は僕の仕事だよ」

 まさにそうだというのだ。その時こそだ。

「神の裁きを下すよ」

「ではその時を考えて」

「うん。動くよ」

「それでは」

 こう神父と話してだ。十字は次の動きに移ろうとしていた。その中でだ。

 学園では何も変わらず生活を送っていた。部活においてもだ。

 彼はまた絵を描いていた。その絵はというと。

 子供と美女が戯れあいその周囲に様々な顔がある、背景は青と黒の暗いものだ。

 その中で戯れあう二人を見てだ。美述部の顧問の先生、落ち着いた紳士がだ。絵を描く十字にこう問うたのだった。

「ブロンズィーノですか」

「はい、愛の寓意です」

「そうですね。また哲学的な絵ですね」

 その絵を見てだ。先生は十字にこう言った。

「その絵を描かれるとは」

「少し思うところがありまして」

「思うところとは」

「この絵はまさに愛を描いています」 

 手を動かし続けながら言う十字だった。絵はまるで川の流れの如く順調に描かれていく。そうしながらだ。十字は先生に対してこう言ったのである。

「人間の愛を」

「そうですね。そう言われている絵ですね」

「はい、そして」

「そしてですね」

 先生もだ。十字に合わせて話していく。

「この絵には愚行や欺瞞、嫉妬や真実と」

「様々なことが描かれています」

 見ればだ。二人の周りにある人物はどれも特徴がある。

 悪戯をしようとする子供や身体が人ではない少女、嘆く女に怒れる男、仮面に無表情の男。実に様々な存在が二人の周りにいて彼等を見ている。

 その絵を見てだ。先生は十字に言った。

「この絵の総合的な意味ですが」

「主人公であるヴェヌスとクピドは母子です」

「つまり許されない愛ですね」

「悪です」

 十字はキリスト教の観点、いや通常の人間世界での倫理から述べた。

「母子の近親相姦、それはまさにです」

「この世で最も忌むべき罪」

「それを誘惑する存在に嘆く存在」

「そして暴こうとする存在ですね」

「そうしたものの全てが描かれている絵です」

「佐藤君はその絵を描いていますが」

 それは何故か。先生はこの考えも持った。

 それでだ。十字にこう問うたのだった。

「それは何故でしょうか」

「人を。今僕が見ているものを描きたかったのです」

「それで描いているのですか」

「はい、悪はこの世にあります」

 そのヴェヌスとクピドの母子を描きながらだ。十字は述べた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ